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新車1台分の資金でもOK? キッチンカーの開業のしかた

新車1台分の資金でもOK? キッチンカーの開業のしかた

フードトラックカンパニー, 佐々木 紀子

キッチンカー(移動販売車)を製作し、その開業支援を行っている、株式会社フードトラックカンパニー。コロナ禍を経て、大きく変化した飲食業界のなかで、昨今のキッチンカー業界や開業のためのリアルな情報を、代表取締役・太田 昭(あきら)さんがお話ししてくれました。「小さいながらも自分のお店を持つ」という夢の実現に一歩近づくために、まずは情報収集をしておくと安心です。

目次

  • 実際どんな人がキッチンカーで開業しているの?
  • キッチンカーでお店を開くメリットとは?
  • キッチンカーの種類と入手方法
  • 開業費用が充分にない場合はどうする?
  • キッチンカーで売れるメニューとは?

実際どんな人がキッチンカーで開業しているの?

コロナ禍前後で開業する人に変化が

キッチンカーで開業するというと、飲食店で何年か修行を積んで、「そろそろ自分の店を持ちたいな」という人が多いのかと思いきや、「フードトラックカンパニー」の利用者には、意外と飲食店での経験がない人も多いのだそう。

コロナ禍は、固定店舗が営業できなくなったこともあり、店舗にお客さんが来ない状況だったため、その穴を埋めるためにキッチンカーを利用するという人が増加。

「〈ビブグルマン※〉に掲載されるようなお店のかたがたが、新しいお客様にアプローチしたいということで、キッチンカーを始められるケースもありました」(株式会社フードトラックカンパニー代表取締役・太田 昭さん)

※ ビブグルマン……ミシュランガイドの格付けのひとつ。コストパフォーマンスの観点から評価されるもので「ミシュランが選定した、一般人でも行きやすい価格帯のお店」という意味。

株式会社フードトラックカンパニーのロゴ
株式会社フードトラックカンパニーは業界最大手のキッチンカーメーカー。東京・中目黒、大阪・海老江、名古屋・大高、福岡・博多などに拠点を構える

コロナ禍が落ち着いてからは、もともと「小さくてもいいから自分のお店を持ってみたいな」という人の割合が増加傾向に。「フードトラックカンパニー」では、20代の女性から主婦のかたの割合がいちばんのボリュームゾーン。

自宅前のスペースにキッチンカーを置いてカフェを開く主婦の人や、平日は会社員で働き週末だけカフェを開く若い女性もいれば、退職後に趣味を兼ねてキッチンカーで開業するご夫婦も。もちろん、仕事を辞めてキッチンカー専業でスタートする人もいますが、共通するのは、“飲食店での経験なし”で開業する人がとても多いこと。

「小さいながらも自分のお店を持つ、という夢をキッチンカーで叶えているかたも実際に多いです。お金を儲けたいというよりも、自己実現ですね。ビジネスシーンでの成功というよりも、自分がしたかったライフスタイルを形にするというイメージに近い感じがします」(太田さん)

おにぎりキッチンカー
“トラック”という同じ形態であっても、バラエティ豊かで個性が出しやすいのが魅力

キッチンカーでお店を開くメリットとは?

では、通常の店舗を持つ場合と、キッチンカーでお店を開く場合、何がどう違うのでしょうか。そこで、キッチンカーのメリットをいくつかご紹介します。

メリット【1】 開業時の初期費用が安い

通常の店舗を持とうとすると、店舗の賃料、店舗内外装工事、厨房設備購入など、初期費用として1000万円以上かかることも。特に地価の高い都心だと、1500〜2000万円かかることも珍しくありません。

一方、「フードトラックカンパニー」のキッチンカーの場合、車両購入や厨房設備購入を含めた初期費用は新車で300〜500万円。通常の店舗に比べて、開業時の初期費用が圧倒的に低く抑えられるのが、キッチンカーの最大のメリットです。

一般的な乗用車(軽自動車)でも、新車で買えば200万円程度かかるのが普通。厨房設備などを入れても300万円からキッチンカーを手に入れられるのには、「フードトラックカンパニー」ならではの理由がありました。

「われわれは『キッチンカーのユニクロ』とも呼ばれています。幅広いかたに使っていただけるようなキッチンカー作りをしているので、いわゆるカスタムカーみたいなものではありません。われわれはキッチンカー専業。だから、お客様に提供しやすい価格のキッチンカーがご用意できるんです」(太田さん)

メリット【2】 人が集まる場所に出店できる

キッチンカーは通常の店舗と違い、日によってお店を構える場所が変えられます。たとえば、平日はオフィス街でランチ営業をして、週末はイベントを開催している場所に出店するということも可能。

「逆に、出店場所が固定化されないので、お客様がいつどこに行けばそのお店を利用できるのか、わかりやすさを発信していく必要もあります」(太田さん)

出店スケジュールが決まったら、SNSなどで出店場所やメニュー、オープン時間などを、自ら発信する工夫が必要といえそうです。

メリット【3】 閉店の際にも費用が抑えられる

通常の店舗の場合、厨房設備や店内の装飾などにこだわればこだわるほど、閉店して退去する際にそれらが残置物扱いになってしまい、処分費用がとてもかかります。「フードトラックカンパニー」の場合は、キッチンカーの買い取り(※)も行っているので、万が一、お店を辞めるときも相談にのってもらえます。

※買い取りは株式会社フードトラックカンパニー独自のサービスですので、他社を利用される際には、充分に調べたうえでご利用ください。

キッチンカーの種類と入手方法

種類は大きく分けて3タイプ

キッチンカーとして代表的な車種は、

  • 軽トラックベースのキッチンカー
  • 1.0t普通車トラックベースのキッチンカー
  • 1.5t普通車トラックベースのキッチンカー

の3種類。提供する料理や出店場所などによって、必要となる車両のサイズが異なってきます。たとえば、狭い駐車スペースでの出店を想定している場合には、「軽トラックベースのキッチンカー」が◎。

イベントやランチ向けに100食以上の料理を提供することを想定している場合には、「軽トラックベースのキッチンカー」よりもひと回り大きく、そのうえ機動性にすぐれている「1.0t普通車トラックベースのキッチンカー」が適しています。

また、「1.5t普通車トラックベースのキッチンカー」はフェスなどの大型イベントでの出店に向いているといえます。

「フードトラックカンパニー」で扱っているキッチンカー全4モデル
「フードトラックカンパニー」で扱っているキッチンカーは全部で4モデル

そこで気になるのが、車両の価格。「フードトラックカンパニー」では、「軽トラックベースのキッチンカー」に車内仕込み(※)不可の「キッチンボックス350」(標準仕様価格263万7170円/税・諸費用込)と、車内仕込み可能の「キッチンボックス453」(標準仕様価格298万円/税・諸費用込)の2モデルを用意。

※車内仕込み……車内で食品の一次処理(一般的に、下ごしらえや仕込みと呼ばれる工程)をすること。食材を切る、下味をつける、冷凍食品を解凍する、生地を混ぜる、肉に串を刺すなどが該当する。

「軽トラックベースのキッチンカー」で車内仕込みが可能なモデルは稀で、製作を行っているのは、国内で「フードトラックカンパニー」含め多くはないそう。なお、どちらも販売目安食数は70〜100食。

伊豆の食材を使ったどんぶり屋「TAG WAGON」
「キッチンボックス350」の出店例。伊豆の食材を使ったどんぶり屋「TAG WAGON」
揚げたてのコロッケを使ったピタパンサンド店「Owls kitchen」
「キッチンボックス453」の出店例。揚げたてのコロッケを使ったピタパンサンド店「Owls kitchen」

「1.0t普通車トラックベースのキッチンカー」は、「キッチンボックス1000」(標準仕様価格398万円/税・諸費用込)で、販売目安食数は100〜200食。

「1.5t普通車トラックベースのキッチンカー」は「キッチントラック1500」(標準仕様価格352万1720円/税・諸費用込)で、販売目安食数は200〜300食。

どちらも、もちろん車内仕込み可能です。「キッチントラック1500」がサイズのわりに値ごろなのは、中古車を利用しているから。他の3モデルはすべて新車になります。

わらびもちとみたらし団子の店「SOLAYA」
「キッチンボックス1000」の出店例。わらびもちとみたらし団子の店「SOLAYA」

※車種、価格などの情報は2024年3月現在のものです。

新車購入以外に中古やレンタルという選択肢も

キッチンカーを入手する際、選択肢として多いのが新車を購入するという方法です。また、台数が少なく限られていますが、中古車を購入するというケースも。

中古の場合だと新車に比べて安く購入できますが、注意点もあります。特に価格の安い中古キッチンカーの場合は、きちんと整備が行われているか、保健所の許可が下りる仕様に車内がなっているか、などしっかり確認することが不可欠。

「われわれはキッチンボックス内に3槽シンクを設置するなど、全国の保健所に対応した中古キッチンカーを販売しています。中古車は入荷数が限られているうえに人気なので、希望されているかたはサイトを頻繁にチェックされることをおすすめします」(太田さん)

すべてのモデルで全国の保健所の診査をクリアする3槽シンク
「キッチンボックス453」の車内。「フードトラックカンパニー」では、すべてのモデルで全国の保健所の診査をクリアする3槽シンクを標準装備している

また、購入以外にレンタルするという方法も。
「レンタルは、ひとまず『フードトラックを試してみたい!』というかたにおすすめです。それ以外にも、大きなイベントに出店することになって、大型の車両や複数の台数が必要になったから1台借りたい、と利用されるかたもいらっしゃいますね」(太田さん)

レンタルの費用は一般的に平日で3〜5万円/日、週末や祝日で7〜10万円/日。「フードトラックカンパニー」でもレンタルを行っていて、「キッチンボックス350」で28万円(税別)/2週間、45万円(税別)/1カ月、など長期のレンタルも可能です。「中小企業様ですと、リースを選ばれるケースもありますよ」(太田さん)

※車種や価格などの情報は2024年3月現在のものです。

同時進行で営業許可の取得手続きを

このように、さまざまな仕様のものがありますが、キッチンカーを手に入れれば開業できるというわけではありません。保健所での営業許可を取得することが必須になります。

そのためには、各都道府県の食品衛生協会が開催している「食品衛生責任者養成講習会」に参加し、「食品衛生責任者資格」を取得しましょう。通常、1日で講習会は終わり、「食品衛生責任者資格」がもらえます。

そのうえで、キッチンカーを出店する場所を管轄する都道府県の保健所で「飲食店営業許可」を取得しなければなりません。車内で調理はせず、食品を販売するだけであれば、「飲食店営業許可」は不要。その場合は、保健所への「営業届出」が必要になります。

開業費用が充分にない場合はどうする?

クリエイター

株式会社フードトラックカンパニー。キッチンカー(移動販売車)開業を支援し、事業主の夢を実現するためのキッチンカーを製造する会社。2017年12月設立。キッチンカーの製作、販売、レンタルだけでなく、キッチンカーに関するセミナー開催、開業コンサルティングなどの開業支援も行う。

編集・ライター。インテリア誌や生活情報誌の編集職を経て、40歳を過ぎてからフリーランスに。家事、収納、マネー、リノベーション、インテリア、料理など携わるジャンルは多岐に渡る。投げられた球はどんな変化球でもとりあえず打ち返すタイプ。

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