レシピ動画会社で専属のフードプランナーで働くかたわら、さつまいも、じゃがいもを使ったレシピを発信する〈おいもクリエイター〉えなりんさん。焼きいも専門店のメニュー監修、レシピ開発、イベント登壇、動画作成など、多岐にわたって活躍中です。今、えなりんさんの周囲には、料理を介した〈おいもの環(わ)〉が。あふれるおいも愛を行動力につなげ、ブレない信念のもと活動するに至った経緯を伺いました。
目次
- さつまいもとじゃがいものポテンシャルを引き出す「おいもの伝道師」
- 本職のかたわら〈おいもクリエイター〉に!
- ブレずに続けてきたからこそ、これからすべきことが明確に
さつまいもとじゃがいものポテンシャルを引き出す「おいもの伝道師」
太る? パサつく? 否! おいもの実力を伝えたい
〈いも・くり・かぼちゃ〉といえば、昔から人気食材の代名詞。中でもいも類は、食卓での登場回数も多い人気食材です。
最近では、スーパーやコンビニで焼きいもが買えたり、焼きいも専門店が続々誕生したりと、絶賛〈焼きいもブーム〉が到来中。野菜売り場をのぞけば、さつまいも・じゃがいもともに品種名を打ち出して販売されるなど、多様化が進んでいるのがわかります。
そんななか、2019年ごろからSNSで〈いも愛〉を前面に打ち出し、〈おいもクリエイター〉という唯一無二の肩書で活動しているのが、今回お話を伺う、えなりんさんです。
現在Instagramのフォロワー数は5万人以上(2024年10月)。昨年、自慢のおいもレシピをまとめた書籍を発売し、おいも好きが集まる〈さつまいも博〉では公認レシピクリエイターとして活躍するなど、存在感を発揮するえなりんさん。
子どものころからいも類が大好きだったというえなりんさんが、〈おいもクリエイター〉を名乗ってその魅力を発信する側となったのは、「おいものポテンシャルの高さをもっと広めたい」という想いからでした。
人気の高いいも類ですが、一方で、「炭水化物が多くて太りそう」、「調理に時間と手間がかかる」、「料理にするとパサパサしそう」といったイメージをもたれがち。
「特に私の周りの20代から、ネガティブな意見が多く聞こえてきて。それを払拭できたらな、という気持ちもありました」とえなりんさん。
いも類の炭水化物は消化が早く、食物繊維もたっぷりだから腸活に最適。しかも豊富に含まれるビタミンCは、加熱しても壊れにくいのだとか。「おいしく食べながら8キロ痩せを実現!」を公言し、お肌ぴかぴかのえなりんさん(まさに玉肌!)を見れば、美容効果にも納得です。
「それに、おいもは手に入りやすい食材ですよね。秋野菜のイメージがありますが、今はオールシーズン状態のいいものが買えて、しかも品種によって味の違いも楽しめます。調理も実は簡単で、全然パサパサしない。味つけだってそんなにこだわらなくても、ちゃんとおいしくなるんです」
「さらには主菜、副菜、汁もの、デザートと、どんな料理にも使える! もう、おいもはいいことしかないんですよ。毎日でも食べてほしいし、自炊にハードルの高さを感じている人にこそ、取り入れてほしいと思っていたんです」
〈食〉を仕事にしたい! がむしゃらに学んだ学生時代
じつはえなりんさんは、現在も平日フルタイムで働く会社員。日本最大級のレシピ動画サイトのフードプランナーとして活躍しながら、休日を〈おいもクリエイター〉の活動にあてています。
本職でも副業でも、どっぷり食の世界で活躍するえなりんさんの原点は、お母様手作りの家庭料理。
おうちごはんが大好きで、お手伝いにも積極的だった幼少期を経て、高校生のころには、将来食関連の仕事につきたいと考えるようになったのだとか。進学先として選んだのは、管理栄養士の国家資格が取得できる四年制大学でした。
「将来仕事にするからには、ただ食が好きというだけでなく、ちゃんと知識をつけて多角的に見られるようにしたいと思ったんです。だから栄養についてしっかり学べる大学がよかったし、資格を取って箔をつけたいという想いもありました」
授業内容はかなり厳しかったそうですが、忙しい学生生活のかたわら、大学1年生から挑戦していたのがレシピコンテストへの応募。
「最初の応募は普通に落選したんです。それが今でも覚えているほど悔しくて。このとき、ただ料理が好きなだけじゃだめなんだと思いました。翌年には、また違うコンテストに挑戦。両親に相談しながら、何度もレシピを作り直して……。
その後、大手食品メーカーが大学と共催したコンテストで優勝することができました。やればやるほどいいものになるし、自信もつく。この経験が、今のレシピ開発の原点になっている気がします」
そのコンテストでは、なんと2年連続で優勝。さらに、えなりんさんの勢いは止まりません。
国家資格の試験を控えた大学4年生のとき、フードコーディネーターの養成スクールに通うことを決意。大学とのダブルスクール生活が始まります。
「スクールを選んだ決め手は、尊敬する料理家のSHIORIさんが通われていたから。SHIORIさんも若いころから経験を積まれて早くに独立したかただし、時間があるのは今しかないという気がして」
スクールの同級生は年上ばかりでしたが、大学とはまったく違う世界に身を置くことで、たくさんのことを学んだそう。当時を振り返りつつ、「がむしゃらでしたね。でも、考えるより行動する方がいいと思っていたんです」とえなりんさん。
管理栄養士実習で気づいた、本当に自分がやりたいこと
精力的に学び、着々と経験を積み重ねていた学生時代のえなりんさん。管理栄養士を目指すための大学の校外実習で、その後の進路を決める気づきがありました。
「病院などの施設の給食実習のとき、『自分の進みたい道とは違うかも』と感じて。もちろん、数値化して栄養を管理するのも大切。でもそれより、もっと日常の『おいしい』に寄り添いたいと思ったんです」
命を支える現場で、食事の重要性を感じたからこその正直な想い。レシピコンテストで結果を残し、レシピ制作にやりがいを感じたことも後押しとなりました。
周りに病院や給食センターへの就職を希望する友人が多いなか、食品メーカーの開発職を希望し、就職活動を始めたえなりんさん。このころには、自身のInstagramの料理アカウントで、日々の食事をアップしていました。
「最初は友人のすすめだったんです。将来レシピ開発をやりたいと話したら、絶対SNSをやっておいたほうがいいよ、と。でも、人にいわれてアカウントを作るくらいなので、慣れておらず、最初はめちゃくちゃ恥ずかしくて。自作の料理を公開するのが、こんなに恥ずかしいものなんだと知りました(笑)」
当時は「続けることに意味がある」と、ほぼ毎日料理の写真をアップしていたのだとか。一度決めたら貫く行動力がえなりんさんらしい!
本職のかたわら、〈おいもクリエイター〉に!
まさかの内定辞退。からの、ギリギリで就職
その後、国家試験の勉強とダブルスクール、さらに就活と忙しい日々を送るなか、ついに内定をゲット! 希望通り、食品メーカーでの勤務がスタートすると思いきや……。
「内定式も行ったのですが、その後、わけあって内定を辞退させてもらいました」
とさらっと、すごい話が……!
「同期になる人たちと話したとき、モチベーションや将来目指すものがだいぶ自分とは違っていることがわかって。環境的に、私がいるべき場所ではないと感じたのが理由です」
そのとき、すでに大学四年生の12月。当然、新卒の求人は激減しているなか、かろうじて出ていた料理教室の講師の求人に応募しますが、なかなか内定が決まりません。
そんなとき、求人サイトを通じスカウトの連絡が届いたのが、現在働いているレシピ動画サイトの会社でした。スカウトの決め手は、学生時代にコンテストで優勝していたこと、そして毎日SNSで料理を発信していたこと。
「運がよかった」と話すえなりんさんですが、それまでのがむしゃらな経験が引き寄せた縁であることはまちがいありません。
卒業までもうすぐのタイミングで得た、まさに滑り込みの内定でした。
自分が進む道は、迷いなく「いもしかない」と決めていた
じつはこのころ、えなりんさんは既に〈おいもクリエイター〉としての活動を始めていました。きっかけは、数年続けていたInstagramでの料理投稿に、だんだんと迷いが生じてきたこと。
「今思うと、家庭料理の発信はもう飽和状態で、誰でもやっていますよね。好きなことを追求したいという気持ちの一方、それまでと同じように料理を発信しても、わくわくしなくなっていた時期でした」とえなりんさん。
「私じゃないとできないことって何だろう」。
ヒントは、インターン先でかけてもらった言葉にありました。
大学生で起業して事業を軌道に乗せた社長から、「自分が好きなことに何か別の事柄を掛け合わせないと、差別化はむずかしいよ」と言われたのです。
えなりんさん自身が好きで、料理として発信していける〈事柄〉……そう、おいもです!
「迷いなく、いもしかないと思いました。大好きなだけじゃなくて、魅力についてもきちんと語れる食材だし、いもなら、自分がいいと思うことをどんどん伝えていけるなと」
改めて〈えなりん〉のアカウントでInstagramを作り、さつまいも・じゃがいもに特化した発信をスタート。就職は翌年2020年でしたが、会社は副業OKのうえ、入社前から〈おいもクリエイター〉の活動を公認。所属している部署も理解がある人ばかりで、みんなが活動を応援してくれるそう。
仕事のすき間時間や週末、ときに有休もフル活用しながら活動するなか、フォロワー数がぐっと増えたのが2022年。特に反響が大きかったのは「夢のフライドポテト」と銘打ったレシピです。
夢の国のテーマパークに行ったあとのように、食べたあとしばらくおいしい余韻に浸れるから、というのが名前の理由。作りやすいレシピが好評を博し、これまでの動画の総再生回数はなんと850万回越えを記録!
鉄板レシピが次々誕生。編集者の目に留まり、本も出版
クリエイター
レシピ動画会社にて専属のフードプランナーで働くかたわら、さつまいも、じゃがいもを使ったレシピを発信する“おいもクリエイター”として活躍中。焼きいも専門店のメニュー監修、レシピ開発、イベント登壇、動画作成などを行う。フードコーディネーター資格保持、さつまいも博公認レシピクリエイター。
フリーライター。東京・多摩で生まれ育ち、百貨店、出版社勤務を経てフリーランスに。日本各地の店舗や生産者のもとを訪ね、食の媒体を中心に執筆。趣味の飲み歩きが高じ、ライターのかたわら、日本酒やビール、ワインを扱う酒販店にも勤務。