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薬膳料理研究家・谷口ももよさんの夢を実現する力

薬膳料理研究家・谷口ももよさんの夢を実現する力

谷口 ももよ, 水野 智恵

体の中から美しくなる「美食同源」をテーマに、“家庭でも作りやすくおいしい薬膳料理”を提唱する谷口ももよさん。薬膳料理研究家になった理由のひとつには、仕事を離れて子育てをしていた時期に、女性としての生き方に悶々としていたからといいます。

目次

  • 薬膳料理がアイデンティティに
  • 思い描いた夢を実現するために
  • 独自路線を打ち出すことの重要性
  • 資格を取得するメリットとは
  • さらに広がる夢に向かって

薬膳料理がアイデンティティに

体の不調を治すことがきっかけ

大学は経学部専攻で、就職先もファッション系から広告代理店と、まったく料理とはかけ離れた世界にいた谷口ももよさん。独身時代は広告代理店の営業としてバリバリ仕事し、ご自身が薬膳料理研究家になるなど夢にも思っていなかったそうです。

薬膳料理研究家の谷口ももよさん
薬膳料理研究家の谷口ももよさん

「会社員時代は一人暮らし。料理することは大好きだったんですが、仕事も忙しかったので、食事はほぼ外食でした。その不規則な生活や仕事のストレスが祟ったのか、ある日を境に心臓がバクバクして、動悸が激しくなってしまったんです。

病院に行っても病名がつかず、『おそらく自律神経の乱れからくるものだから、とりあえず様子を見て』と言われるだけでした。数日すると症状が治まるので、だましだまし仕事を続けていました」

その後、結婚して会社を退職。仕事を辞めてからは平穏な日常を送っていたものの、第二子が生まれたころから、強烈なめまいに襲われるように。病院に行きましたが、そのときも診断がつかず、お医者さまから『自律神経の乱れ』と指摘されたそうです。治療法もないまま、不調続きのなかで子育てと家事に追われる毎日でした。

食べることで健康を取り戻す

「病院で体の不調を治せないなら、自分で健康を勝ちとるしかない! その基本となる体づくりは、やっぱり食べることだと思い至りました。そこから食事についていろいろ調べ、薬膳料理にたどり着いたんです。

中国伝統医学(※)の理論をもとに陰陽五行を用いる薬膳は、それぞれの食材のもつ効果・効能を活かす“食養生”。自分の体質や体調に合わせて食材をセレクトすることで、体の不調を未然に防ぎ、美肌やアンチエイジングにつながります。

肉や魚を制限する必要もないから、食べることが好きな自分にはぴったり!と思って。しっかりと理論を学びたくなって、一から勉強を始めました」

※中国伝統医学(中医学)……二千年以上の歴史を持つ、中国の伝統的な医学。生薬や陰陽五行などの考えを組み合わせた漢方薬(方剤)の基礎で、人間の自然治癒力を高める

新鮮野菜たっぷりのメニュー
過去の経験を生かしてレシピ提案をする谷口ももよさん。こちらは免疫力アップを期待できる、新鮮野菜たっぷりのメニュー

勉強しながら薬膳料理にトライ

子ども2人を育てていくためも、とにかく早く元気になるしかない。料理を作るのが大好きな谷口ももよさんは、勉強しながらどんどん自分で薬膳料理を試作していきます。お母様が料理好きで、手作りのおいしい料理を食べていたおかげで、味覚は鋭敏。味を再現するもの得意なんだそう。

「薬膳を取り入れた料理を毎日のように作って、体がめきめきと元気になっていきました。さらに肌のコンディションまでよくなったんです。家族が喜んで食べてくれるし、みんなが健康になって、これはいい!と。それで薬膳料理の魅力にはまっていきましたね」

薬膳
「食べることで養生する」という変え方が薬膳の基本

思い描いた夢を実現するために

自分と社会をつなげる料理

「子どもが幼稚園に通い始めてから、『◯◯ちゃんのママ』って呼ばれることが多くなったんですよね。それが、仕事をしていたころと比べて、自分の存在感がなくなったように感じて、社会から孤立したような気持ちになってしまって。

そんな気分を払拭したくて、子どもが小さくて外食ができない時期は、よくママ友を招いてホームパーティーを開いていました。そのときに友人が、『こんなに料理が上手なら教えればいいのに!』と言ってくれたんです。その言葉を聞いたとき、薬膳料理を通してもう一度社会とつながることができるかもしれない……。そんな思いが芽生えました。

もともと自分のため、家族のために作っていた料理。それが、薬膳料理を勉強し、試作を繰り返すなかで、次第に料理づくりそのものが、自分のアイデンティティになっていたんですよね。それに気がついたとき、『いつか自宅で薬膳の料理教室を開きたい』と思うようになっていきました」

華やかな薬膳料理
谷口ももよさんが提案するメニューには、一見すると薬膳料理には思えないほど、華やかなものも
ルーロー飯
薬膳を取り入れた、手軽でおいしいルーロー飯。ご家族にも人気です

元気を生み出す料理教室

薬膳を勉強し始めてから約2年後。猛勉強を経て、「国際薬膳調理師(※)」の資格を取り、ついに料理教室を開くことに。薬膳料理を通して、自分に何かできることかを考えた結果でした。

※国際薬膳調理師……中国薬膳研究会による資格。薬膳ついて高水準の技術や理論が必要とされる

「料理教室のスタートは手探り状態。それでも、教室に来ていただいた生徒さんのために有意義な時間にしたい、という気持ちは強かったですね。自宅での料理教室は、まずは自分の世界をつくることが大事。何より、みなさんにもこの薬膳を知ってもらいたい。そして、私といっしょに、有意義な時間を過ごしてもらいたい。それが、お教室の始まりです。

『どうしたら先生みたいに活躍できますか?』と質問されるかたもたまにいらっしゃいますが、やっぱり近道はありませんし、最初から活躍したい、お金を儲けたいなんて考えてやっていたら、ここまでは続けれられなかったと思います。薬膳を広めたい。これが大前提で、目的でしたね。

私の教室は、始めは生徒さんは数人、月1回程度の開催で、無理のないところからスタートしました。無理のないところといっても、フリーペーパーで募集したり、SNSでの発信をがんばったりはしていましたね。私の教室がパワースポットみたいになって、来たときより元気になってもらえる、そんな理想を思い描いて、1回1回を大事にしました。

おいしいと思ってもらえる料理はもちろん、知識を伝えることや、それ以外のお話、気配りなど、トータル的に満足してもらうことを考えました。それを繰り返していると、回を重ねるごとに、開催が月4回になり、8回になり……と、だんだんと生徒さんも増えていったんです」

独自路線を打ち出すことの重要性

クリエイター

2009年に薬膳料理研究家として活動をスタート。2016年に「一般社団法人東洋美食薬膳協会」を立ち上げ、2023年末には「世界中医薬学会連合会」の理事に日本人女性として初めて就任。新協会での活動のほか、数々の著書や講演、テレビ出演などでも薬膳を広めている。

編集・ライター。情報系出版社を経てフリーランスに。衣食住全般からビジネス系まで幅広く取材・ライティングを行い、飲食店での取材は約500軒を数える。人が書いた文章を読むのも話を聞くのも大好物で、取材があれば前のり上等でどこへでも向かう。

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