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思わず口に運びたくなるシズル感! 食品サンプルの奥深き世界

思わず口に運びたくなるシズル感! 食品サンプルの奥深き世界

株式会社いわさき, 佐々木 紀子

日本独自の文化で、世界から「日本のリアルアート」として注目を集める食品サンプル。陽の目をみなかった料理を人気メニューに押し上げたり、店舗の売上を伸ばしたり、再来店率が高まると立証されていて、長く外食産業を支えています。近年では、食品サンプルそのものを楽しんだり、食品サンプルを利用した雑貨も人気。長きにわたり、食品サンプル業界をけん引する「株式会社いわさき」に、食品サンプルの変遷を伺いました。

目次

  • 追求するのは〈リアル感〉より〈おいしそう〉
  • 食品サンプルの枠を超えて飲食店の業務をサポート
  • 食品サンプルを効果的に活用してもらい、飲食店が繫盛するのを支える
  • 思わず笑ってしまうユニークな商品も続々登場
  • 世界でも注目されている、日本の食品サンプル
  • 食べること、作ること、人を楽しませることが好きな人が集まる「株式会社いわさき」

追求するのは〈リアル感〉より〈おいしそう〉

飲食店の店頭のショーケースに食品サンプルがずらりと並べられている様子は、今では当たり前の光景になっていますが、いつごろこの食品サンプルが日本に登場したのか気になるところ。じつは、大正末期から昭和初期に生まれたといわれていて、この食品サンプルを日本で初めて事業化したのが、今回ご紹介する「株式会社いわさき」です。

創業は昭和7年で、当時は現物にかんてんをかけて型を取り、そこに蝋(ろう)を流し込んで作る製法からスタート。技術の進歩とともに素材は蝋から塩化ビニール樹脂に変わり、今は現物にシリコンをかけて型を取り、そこに塩化ビニール樹脂を流し込む製法で作っています。

えび 数の子 あわび おせち料理 2段重 食品サンプル
えびや数の子、あわびなど色とりどりのおせち料理が詰まった2段重のサンプル

食品サンプルの製作方法は料理内容によって千差万別ですが、基本的には〈料理の見本を盛りつけた状態で、食器ごと預かる〉ところから始まります。ひとつひとつの食材をシリコンで型抜きし、その型に塩化ビニール樹脂を流し込んでオーブンで焼成。

固まったパーツにエアブラシや筆を使って着色したらパーツの完成です。最後に食器に盛りつけ、パーツを接着剤やシリコン糊で食器に固定し、つや出しなどの仕上げの工程を経て、ようやく全体が完成。

これらの工程がすべて手作業で行われています。なかでも、着色の工程は職人の技が必要とされる工程。

魚のうろこや骨、色の濃淡など本物と見間違うほど

「昔、焼き肉屋さんから、生肉の食品サンプルを注文いただいたとき、めちゃくちゃ腕のいい職人さんが、本物と見まがうようなものを作ってくれたんです。その焼き肉屋さんはすごく喜んでくれたんですが、食品サンプルはどうしても劣化してくるので、数年後に『作り直してほしい』という依頼がありました。

でも、すでにその職人さんは退職していて……。その職人さんしかできない着色技術だったので、それを再現するのに、当時とても苦労した記憶があります」

と話すのは、株式会社いわさきの管理本部長・鳥路 茂(とりじ しげる)さん。

「昔は、生肉や鮮魚などの食品サンプルを作るのがむずかしく、それらをスムーズに作れる人が一流の職人でした。でも、最近のデジタル技術の進化によって、生肉や鮮魚などをスキャンして、それを印刷して、最後に筆入れして作る製法によって、よりリアルに作ることが可能になりました。

なので、『職人歴何十年の人じゃないと作れない』というようなことは、減ってきていますね」(鳥路さん)

食品サンプル 牛ロース肉
最新技術で作られた牛ロース肉の食品サンプル(右)。どちらが本物か見分けるのが困難なほどの再現性に驚く
食品サンプル 魚
こちらも最新技術で作られた鮮魚の食品サンプル

「食品サンプルを作るうえで大切なのは“本物に近づける”ことですが、さらに追求しているのは、おいしそうに見えるかどうか。

おいしそうだなと思う料理は、鮮やかな色も重要になってきますが、実物に忠実に作ろうとすると、実際の野菜の色が少しくすんでいたりするんです。つやもないほうがリアルに見えるけど、つやをかけたほうがおいしそうに感じたりします。リアルでありつつ、よりおいしそうに見える、というギリギリのラインにこだわって作っています」(鳥路さん)

食品サンプルの枠を超えて飲食店の業務をサポート

もともとは食品サンプルの会社として創業した「株式会社いわさき」でしたが、現在は食品サンプルだけではなく、飲食店で使われるあらゆる商品を取り扱っています。そのターニングポイントは、今から40年近く前のこと。

「その前から、『飲食店に出入りしているんだから、食器とかも取り扱ったらいいじゃないか』という話はあったんですが、そのたびに『うちは食品サンプルの会社だから』という意見が出てきて、なかなか進まなかったんです。

でも昭和61年ごろに、ほかの商材も扱っていこうよ、ということで、飲食店の人が料理に専念してもらえるように、毎年計画的に商材を広げていきました」(鳥路さん)

もともと食品サンプルを並べるショーケースなどは扱っていましたが、今では食器やのぼり、割り箸やお手ふきなど、飲食店で必要なものは基本的にすべてカバーしています。

驚くのが、飲食店で手にするメニューブックも、撮影からデザイン、納品まで行っているとのこと。撮影するカメラマンも外注ではなく、社員で行うなど徹底しています。

食品サンプル 撮影
料理のこだわりポイントなどをヒアリングしたうえで、その料理がよりおいしそうに見える構図やライティングにこだわって撮影

「平成5年から自社での撮影も取り入れました。とはいえ、撮影技術に長けた社員がいるわけではなかったので、いちばん最初のカメラマンは一人の社員。プロのカメラマンさんにお願いして、半年くらい修行させてもらって。そのプロのカメラマンさんからは、『お前の会社はどうなっているんだ?』って言われましたね(笑)」(鳥路さん)

現在では3名の料理撮影専門のプロフードカメラマンがいて、年間約350件にものぼる飲食店の撮影を行っているそう。撮影した料理写真は、メニューブックやタペストリー、ホームページなど、さまざまな用途に活用でき、飲食店の販売促進の要となっています。

料理写真 タペストリー 飲食店 外観 中華
撮影した料理写真はタペストリーにも活用可。撮影からデザイン、納品までを一括で行っている

食品サンプルを効果的に活用してもらい、飲食店が繫盛するのを支える

クリエイター

世界から「日本のリアルアート」として注目を集める「食品サンプル」の創業企業。昭和7年(1932)の創業以来、食品サンプルを通して“おいしそう”を伝え、外食産業の発展に貢献。現在は食品サンプルに留まらず、「繁盛のお手伝い」を使命として、飲食店に関わるあらゆるニーズに対応している。

編集・ライター。インテリア誌や生活情報誌の編集職を経て、40歳を過ぎてからフリーランスに。家事、収納、マネー、リノベーション、インテリア、料理など携わるジャンルは多岐に渡る。投げられた球はどんな変化球でもとりあえず打ち返すタイプ。

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