なぜ人気?【瀬尾幸子・リュウジ・まるみキッチン】元放送作家のライターが考察
宇宙のように広大なYouTubeに存在する料理動画の中から、強く心惹かれたコンテンツをピックアップ。ライターの視点で見て作って食べて、愛される要因を勝手に考察、称賛する偏愛コラムです。ピックアップする料理は基本的に簡単で1人分。体に優しいヘルシー&ダイエット系が多めですが、気まぐれでガッツリ系&スイーツも。日々の料理が楽しくなる、レシピやチャンネルとの新たな出会いのきっかけになりますように。
第1回目は「料理レシピ本大賞 in Japan」料理部門大賞を受賞した料理研究家3人の動画チャンネルをご紹介。この賞は2014年「料理レシピ本」の価値を広めるために創設されました。5月下旬に発表の2024年第11回の総エントリー数は112作品。大賞などの受賞作品は9月に発表されます。
今回は第2回&第5回で大賞に輝いた瀬尾幸子さん、第7回&第9回大賞を獲得したリュウジさん、2023年の前回第10回にて初レシピ本で大賞を受賞したまるみキッチンさんの料理動画をレビューしていきます。
基礎と革新を凝縮 瀬尾幸子さん
料理への静かな情熱が漂う珠玉レシピ
「毎日頑張りすぎず、毎日作れる料理」をテレビや雑誌などで提案している料理研究家・瀬尾幸子さん。料理レシピ本大賞 in Japanでは『ほんとに旨い。ぜったい失敗しない。ラクうまごはんのコツ』(2015年第2回)、『みそ汁はおかずです』(2018年第5回)と2度にわたり、料理部門で大賞を受賞しています。
瀬尾さんのYouTubeチャンネルは「ラクうま瀬尾食堂」。瀬尾さん自身が登場し、料理を作りながら説明していくスタイルです。2022年から公開されている動画は34本。メニューはパスタやオムレツ、サラダ、どんぶり、サンドイッチなどどれもシンプルで調理工程も少ないものばかり。なぜこのような切り方をするのか、なぜゆで時間を倍にするのか…など初心者が疑問に思うことを簡潔に説明してくれるのでレシピがインプットされやすい。
瀬尾さん愛用の100均グッズでできる自作ミニまな板の作り方や使い方のショート動画も。どの動画からもほっこりする瀬尾さんの人柄が伝わる点もポイントが高いところ。レシピ本を読むと動画で見た瀬尾さんの声で言葉が再生され、本に込められた「らしさ」や「こだわり」が深く心に沁みわたります。
「喫茶店のナポリタン」を作ってみました
瀬尾さんのYouTubeレシピ動画の中でダントツ人気が「喫茶店のナポリタン」。ダイエット中なのに「喫茶店の」に惹かれてしまいました。材料はスパゲッティ、たまねぎ、ピーマン、ソーセージ、トマトケチャップとシンプル。驚いたのは麺のゆで時間。「ナポリタンの場合、勇気を出して倍の時間ゆでてください」と瀬尾さん。1%の塩分濃度(これも大事!)にした鍋で1人前を8分の2倍・16分。倍時間ゆでるのは人生初体験。一体どうなるんだ!?
16分後、麺は水分をこれでもかと含んで、ふっくらもっちもちに。全体量も2人分ほどにボリュームアップしていました。ドキドキしながら、麺をサラダ油であえて炒めた具材に投入。調味は麺に塩味がついているので、ケチャップのみで十分なのもうれしい。最後に黒コショウを振りかけていざ実食。「…喫茶店のナポリタンだ」。
麺も具材もおいしすぎてしばらく硬直。1人分の麺で2人分の量ができてコスパも◎。冷蔵(冷凍も可)して翌日にレンチンすると再び感動が。このナポリタンについて「子どものころに食べたら、おじいさんやおばあさんになっても食べたくなる」と言っていた瀬尾さんの言葉に異論はありません。
令和最強の料理エンタメ リュウジさん
「リュウジ以前、リュウジ以後」で料理界が激変
料理界に革命をもたらした料理のおにいさんこと、リュウジさん。「台所に立つすべての人の味方であろう」と常識を覆す方法で誰でもおいしく作れるレシピをネットおよびレシピ本で公開しています。これまでレシピ本大賞の料理部門で『ひと口で人間をダメにするウマさ! リュウジ式 悪魔のレシピ』(2020年第7回)、『リュウジ式至高のレシピ 人生でいちばん美味しい! 基本の料理100』(2022年第9回)と2度も大賞を受賞。これまで料理研究家の露出はテレビや雑誌、料理本などでしたが、インターネットを主戦場にするリュウジさんの登場で業界が激変。レシピだけでなく料理界の常識をも覆しました。
登録者数480万人以上を誇る大人気YouTubeコンテンツ『料理研究家リュウジのバズレシピ』は2018年から2000本以上の動画を配信しています。リュウジさん本人が登場し、料理を作りながら説明するスタイル。お酒を飲みつつ、軽快なトークで説明しながら、初心者でも作りやすい材料・工程のレシピを「絶対おいしい」と自信満々で紹介。ガッツリからダイエットメニュー、もちろんお酒が進むおつまみまでメニューも豊富です。
煮る・炒めるシーンはノーカットで見せるなど視聴者ファーストな作り。リュウジママ、虚無おじさんといったキャラで料理のバリエーションを変えたり、ファミリー感あふれるスタッフと試食をするのもエンタメ感があって楽しい。鳥貴族やバーミヤンなどの飲食店に行き、お気に入りメニューやおすすめの食べ方を料理研究家目線での解説も。カルディの商品や冷凍食品などを実際に作って食べての正直商品レビュー企画もあって飽きません。
調理以外の動画を紹介する意図として「毎日自炊だと疲れるから、たまには外食や便利なアイテムを取り入れて息抜きほしい」という思いがあることを語っていたリュウジさん。視聴者の味方であるリュウジさんが「作ること」「食べること」を楽しむコツをレシピや企画を通して提案してくれている。令和最強のエンタメ料理ショーといっても過言ではないでしょう。
「デブブレイカー炒飯」を作ってみました
夕食はなるべく糖質が低いメニューに…とオートミールを買ったもののイマイチおいしく食べることができずに悩んでいました。そこで見つけたのが、デブブレイカー炒飯ことオートミール納豆炒飯。いつも自分で炒飯を作る時は1つなので迷った末、「最初はレシピ通りに作る」というリュウジさんの言葉を思い出して2つ使いにチャレンジ。
やはりこれが大正解で、普通のごはんで作る炒飯と同じような、というか超えるおいしさに。納豆とたっぷりの卵によってオートミールの独特の味や食感を軽減できて感激しました。そして、炒飯を食べた後の満足感がハンパない!夕食だけでなくランチにもおすすめの一品です。キムチや高菜などを入れたら、おつまみとしてもいけそうな余白もさすがです。
シン・料理家 まるみキッチン
魅力的な「ニン」でつかまれてしまう不思議な料理動画
「だれでもカンタンにおいしく作れる」をモットーに、手軽にチャレンジできるカンタン絶品レシピをネットや本で紹介している料理家・まるみキッチンさん。初めてのレシピ本『やる気1%ごはんテキトーでも美味しくつくれる悶絶レシピ』で2023年第10回レシピ本大賞の料理部門・大賞を受賞。シリーズ続編となる『弁当にも使える やる気1%ごはん作りおき ソッコー常備菜500』でレシピ本大賞連覇を狙います。
細マッチョ系のまるみキッチンさん本人が顔出しで出演している登録者数40万人を誇るYouTubeコンテンツまるみキッチン【簡単レシピ】。2021年から1370本以上の動画を配信しています。人懐っこい大阪弁でレシピを紹介する10分~15分程度の動画と1分程度でレシピをまとめたショート動画の2種。ショート動画は顔出しやナレーションはなく手元のみ、テロップで進行。料理を作る際にはとてもわかりやすくて便利です。
しかし、まるみさんの良さが存分に感じられるのは10分越えのほう。料理動画というと、テキパキ調理を進めていくイメージがありますが、長尺動画のまるみさんはあくまでマイペース。決して急がず大阪弁でまくしたてることもなく、まるでツレとビデオ通話しているかのようなゆるい雰囲気。こなれすぎていない感じがなんとも癒される、そそられるんです。
そのマイペースな言動や映像の作りにツッコみたくなったら負け。「仕上げにパセリっぽくみせかけた青のり」「いい感じに器に盛りつける」などいい意味でテキトーなテロップが「料理のハードル」「料理とはこうあるべき」をガラガラと崩していく。計算したり狙ったりしては作れない絶妙なゆるさが魅力。誰もが天真爛漫な三浦健吾さん(本名)の魅力的な「ニン」でつかまれてしまう不思議な料理動画。彗星のごとく業界に現れたまるみさんが料理の神に愛されるのも納得。ぜひこのゆるさをいつまでもキープしていただきたいものです。
「旬の新たまねぎを使った丸ごとポトフ」を作ってみました
フライパンで焼くか、サラダにするか…新玉ねぎの使いどころに困っていたのでこのメニューをチョイス。新玉ねぎとソーセージ、コンソメ粉、水+レンチンで出来るだと!?まさにやる気1%レシピ。あまりにも簡単すぎる。だいじょうぶなのか!?半信半疑でトライしてみました。動画のとおり、竹串ではなく箸を刺して硬さを確認。加熱時間を何度か追加して調整しながらレンチンして、あっという間に完成。
仕上げにはまるみさんの動画に沿ってパセリではなく青のりをトッピング。なるほど!洋食のポトフに青のりでもぜんぜんOKじゃないか!と感嘆。とろとろアツアツの新玉ねぎにコンソメとソーセージのうまみがしみ込んでおいしい!冷めるとまた甘さが増してスープも完飲してしまうほど。味付けがコンソメひとつなんて思えない…。白ワインなどお酒がすすむ一品。黒コショウを振るとまた格別です。サイドではなくメインとしてもいけるレベルです。
クリエイター
元放送作家のライター。「おもしろいものをわかりやすく伝える」がモットー。最近は、著名人へのインタビューやイベントレポート、バラエティ番組解説などを担当。コロナ禍に料理に目覚めるとともに、レシピ動画や本の奥深い魅力に気付く。