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ワタナベマキさんに聞く オンライン料理教室の工夫

ワタナベマキさんに聞く オンライン料理教室の工夫

ワタナベ マキ, 晴山 香織

グラフィックデザイナーを経て、料理家として独立されたワタナベマキさん。忙しい人に寄り添いながらも、粋でおしゃれなレシピが数多くのかたに支持されています。そんな絶大な人気を誇るワタナベさんが、2021年からオンライン料理教室を開始。始めようと決意したきっかけや、始動する前の準備、企画の考え方、オンラインだからこその工夫をお聞きしました。

目次

  • 料理教室を始める前に決めたこと
  • スタート後も、見直しながら続けていく

料理教室を始める前に決めたこと

雑誌や書籍では伝えきれない『基本』を細かく

「大切にしたいのは、ちゃんとおいしく、その食卓が続くこと」

ワタナベマキさんのオンライン料理教室についての説明には、そんな言葉が書かれています。料理は毎日続いていくこと。日々、無理なく作れて、なおかつおいしければ、作る人も家族も心地よく過ごすことができると考えて綴った言葉でした。オンラインで料理教室をスタートさせたのは、2021年のこと。

「いつかは料理教室をしたいとは思っていましたが、もう少し歳をとってからかなと考えていました。歳を重ねて、いろいろな知恵が身に付いてからのほうが説得力が増すだろう、と思っていて。でも、まわりからの後押しや、コロナ禍だったこともあって始めることにしたんです」

それまで、リアルで行う単発の料理教室やイベントをすることはあったものの、自身主催のオンライン教室は初めて。頼りにしたのは、ワタナベマキさんのマネージメントを担当してもらっていた会社(以下、M社)。

「M社は、料理に限らず、オンラインの教室を手掛けたことがあって知識が豊富。いろいろなアドバイスもしてくれるので、立ち上げからいっしょにやってもらうことにしました」

まず、決めたのは教室のコンセプト。ワタナベさんは、かねてより「料理の基本の大切さを伝えたい」という思いを持っていました。もちろん、雑誌や書籍でも紹介してきましたが、自身が直接やりとりできる教室なら、より細やかにていねいに伝えられるのではないか、と考えたのです。

「料理って毎日続くことだからこそ、おいしいうえに、無理なくできるようにしたい。シンプルな素材と手順を覚えたら実現できるということを実感してもらえたらいいな、と思ったんです。食材の扱い方や調味料の選び方、火加減など、基本的な部分がしっかりしていれば、そこからいくらでもアレンジできるようになるし、おいしくできるはずですから」

基礎を知ることが、料理をおいしく、楽しくする。それは、ワタナベさん自身が身をもって体験してきたことでもあります。そんな姿勢を伝えるために、コンセプトも考案。

「Simple(シンプル)、Sustainable(サスティナブル)、Smile(スマイル)という3つのSを軸にして、教室の名前は『3“S”COOKING LESSON』としました」

「Simple」は、素材をいかした調理法で、基本の調味料を大切にするということ。「Sustainable」は、繰り返し作れて、食材や道具に無理がなく、日々続けられること。「Smile」は、家族や大切な人が笑顔でいられること。この3つを大切にして、料理に向き合う教室というわけです。

一方通行にならないよう、交流を大切に

具体的に内容を考え始めたころに感じたのは「一方通行にしたくない」ということだったと話します。

「私から一方的に伝えるだけにはしたくない、と思いました。オンラインでもコミュニケーションはとれるのだから、受講者さんとやりとりしながらの教室にしたい、と。雑誌や書籍では伝えるだけで終わってしまうし、スペースや時間の都合で全部を伝えきれていません。教室なら、細かいところまで話せるし、近い距離でやりとりができるのだから、コミュニケーションを大切にしたいと思いました」

そのために、ただ料理をするだけではなく、調理道具や器、調味料についてもきちんとていねいに伝えることを大切にしたいと考えました。例えば、1回目の教室の内容は「おいしさの要・包丁研ぎと八方だし(※)を学ぶ」。事前に砥石を送り、家庭で実際に包丁を研げるように。

(※八方だし……しょうゆ、酒、みりんに、削り節、干ししいたけ、昆布を煮出したもの)

「料理をするうえで、包丁がよく切れると作業がぐっとスムーズになります。なにより材料を扱うのが楽しくなる。とはいえ『包丁を研ぎましょう』と伝えるだけでは、わからないものですよね。それに、砥石を買うとなるとハードルが高いかもしれません。なので、こちらからおすすめのものをお送りすることにしました。1回目の講義では、八方だしの材料である乾物類もセットにしています」

ほかにも、「夏にうれしいスパイスカレーとトマトサラダ」では、オリジナルでブレンドしたカレーパウダーと、夏限定のおすすめのトマトを。盛りつけ箸や赤酢を送る回もあります。これなら自分でもできそう、やってみたい!と思える仕掛けです。また、これらが届くことで、自然とワタナベさんとの距離も近く感じるようになり、講義中のコミュニケーションもとりやすくなるのでしょう。

受講者にはオリジナルのノートも送付。ポイントなどをまとめて、それぞれの料理ノートとして使ってもらうようにしています。表紙は金の箔押しで、上品な雰囲気

高めの価格でも、納得してもらえる内容とは?

クリエイター

料理家。グラフィックデザイナーを経て独立。旬の食材を取り入れたレシピや、一人息子に作り続けているお弁当のほか、シンプルでおしゃれなライフスタイルが人気となり、雑誌や書籍、テレビ、Instagram(@maki_watanabe)などで幅広く活躍中。

フリーライター。出版社オレンジページに入社し、生活情報誌『オレンジページ』『オレンジページ インテリア』の編集を担当したのち、フリーランスに。暮らしやインテリア、カルチャーを中心に、雑誌や書籍、WEBで執筆・編集を行う。

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