焼き菓子店『bake merry kitchen(ベイクメリーキッチン)』では通信販売はせず、店頭販売と喫茶の営業スタイル。店主・黒田裕子(ひろこ)さんが作るのは、素朴でシンプル、なのにどこか大胆で思わず見入ってしまうような焼き菓子の数々。「無理なく、自分のペースで続けていきたい」と製造から接客まで1人でこなします。2024年7月に7周年を迎えた今、オープンまでの道のりやお店の運営方法、レシピや焼き菓子への思いをお聞きしました。
目次
- 『bake merry kitchen』ができるまで
- お店もレシピも、自分に合うやりかたを見つける
- 無理なく、楽しみながらお店を続けていくために
『bake merry kitchen』ができるまで
『bake merry kitchen』があるのは大阪・福島区の聖天通り商店街の一角。にぎやかな駅前から離れ、商店街をぐんぐん進んで行くと、昔ながらの喫茶店や商店など徐々にアットホームな雰囲気が流れてきます。『bake merry kitchen』があるのは、まさにそんなエリア。
偶然見つけた空き物件
『bake merry kitchen』の店主・黒田裕子(ひろこ)さんは、元々このエリア周辺で一人暮らしをしていたこともあり、治安のよさや都心でありながら、ゆったりとした空気が流れているところを気に入っていたそう。
「物件探しは不動産屋さんを回って、エリアは絞らずに探しました。だけど、ここだという物件がなかなか見つからなくて。とくに人気のエリアはすごく家賃も高いし、空きもなくて、何年待ちという状況でした。
この物件と出会ったのはそんなときです。このあたりを散歩していたら、入居者募集の張り紙が目に留まり、すぐに問い合わせました。角の物件がいいなと思っていたことも決め手でしたね。2017年7月にオープンしたので、たしかオープンの3カ月ぐらい前の出来事だったと思います。
契約した時点から家賃が発生するので、物件を決めたら、オープンするのは早いに越したことはないかなと、個人的には思いますね」
その緑色じゃない!忘れられないエピソード
以前は洋服屋さんだったという店舗は、角という立地に加え、大きな窓が4つもあり、やわらかな光が注ぐ優しい空間。
「内装も外観もシンプルにしたかったので、準備する什器や設備も必要最低限でした。イートイン用のテーブルと椅子はインターネットで注文。お皿やコップは雑貨屋さんで揃えました」
とはいえ、内装業者さんにお願いしたこともあるようで。
「壁に設置している棚板と、扉の塗装を業者さんにお願いしたんです。棚板はイメージどおりだったのですが、扉の塗装が……。完成した扉を見たら、私がお願いした色とは全然違う色の扉がありました。なんていうか、もう眠れないぐらいショックでしたね」と当時を懐かしむように話す黒田裕子さん。
「お店をやり始める前から、“夢ノート”というものを作っていました。夢ノートは、自分の夢を書いたノートのことです。夢って、紙に書くと叶うとかいうじゃないですか。『こじんまりしたお店』とか、『少人数でいっぱいになる広さ』とか、理想のお店像みたいなものを書き溜めていて。その中に『お店の扉は緑色』、というのもありました。
業者さんには実際に色の見本を見せて、『この緑で』ってお願いしたんですよ。だけど、本当に全然違ったんです(笑)。半泣きになって、『この緑じゃないです』と業者さんに伝えたら、なぜか業者さんもショックを受けてしまって。
その姿を見て、もう自分でやるしかないと思いました。慌ててYouTubeで塗装する動画なんかを検索して、自力で塗り直しました。梅雨明け間近の暑くなってきている時期だったこともあって、めっちゃ大変でした。『暑いときにようやってたなあ』と今でもご近所さんに言われます」
そんなハプニングを乗り越えて完成した柔らかな緑色の扉は、今やお店のトレードマーク。
「色ってむずかしいなって思いました。白や黒は比較的わかりやすいと思うんですが、赤とか青とかは、人によって思い描くトーンが違いますよね。もし塗装作業を依頼するなら、塗装“前”に、ちゃんと色の確認をするのをおすすめします(笑)」
店名の由来とものづくりの原点
ところで、『bake merry kitchen(ベイクメリーキッチン)』という店名にはどんな意味があるのでしょうか。由来について教えてもらいました。
「店名は英語で、わかりやすいのがいいなと思っていました。作りたいものが焼き菓子だったので、まず、焼くという意味のbakeを使いたいなと。
そして、辞書でいろいろ調べていたら、make merry(メイクメリー)という熟語があって、はしゃぐ・面白く遊ぶ・楽しくやるという意味だったんです。この“楽しくやる”っていうのが自分にぴったりだなと思って。make merryをbakeでもじって、響きがかわいいkitchenをプラスして、『bake merry kitchen』と名付けました」
楽しむことを大切にしているという、店主・黒田裕子さんですが、子どものころから食べることや料理に興味があったのでしょうか。
「食にはさほど興味がないような子どもでした。昔の写真を見返すと、子ども用の小さな椅子を机代わりにして、それにしがみついて無我夢中で絵を描いている姿がたくさん残っていて。絵を描いていると人が集まってきて、みんなが喜んでくれる。このとき感じた“自分が作ったもので人を喜ばせることができる”という感覚こそ、私の原点です」
「夢中になるものが絵から食に変わっていったきっかけは、正直よく覚えていません。強いていうなら、パンが好きで、パン屋巡りをするようになったからかな。
作る人になりたいと専門学校に進んだのは、大学卒業後です。専門学校へ行きたいと親に相談したら、『やりたいことがあるならやりなさい』と背中を押してもらえました。それから1年間、製菓の専門学校に通って、菓子作りの基礎を学びました」
「専門学校を卒業後に、パン屋さんで働きながら、家でもパンやお菓子をよく作っていました。その流れで、焼き菓子作りにハマっていった感じです。私にとっては、自分のアイディアを形にする手段として、お菓子が向いていたのかなと思います」
作る喜びを知り、焼き菓子作りの楽しさに気づき、アイディアを形にできる場所を求めた。それが『bake merry kitchen』の始まりでした。
お店もレシピも、自分に合うやりかたを見つける
クリエイター
大阪・福島区で焼き菓子店「bake merry kitchen(ベイクメリーキッチン)」を営む。素朴でシンプルでありながら、思わず目を惹くような個性のある焼き菓子を生み出している。大学卒業後に製菓の道へ進み、パン業界で経験を積んだのち、自分のアイディアを形にしたいと2017年に独立。菓子作り、販売、接客を1人でこなす。
フリーライター。大阪在住。大学卒業後、株式会社オレンジページでアルバイトとして現場や料理を学んだのち、兵庫県・神戸の帽子ブランド「mature ha.」に就職。退職・出産を経て、ライターとして活動開始。好きか嫌いかはひとまず置いといて、とりあえずやってみるタイプ。今日も夕飯の献立を考えながら暮らしている。