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デザイナーならではの視点。そのぎ茶とスイーツのカフェ「西荻3時」

デザイナーならではの視点。そのぎ茶とスイーツのカフェ「西荻3時」

西荻3時, 水野 智恵

東京都杉並区・西荻窪にあるカフェ「西荻3時」。懐かしさもありつつ、その洗練された雰囲気に心をくすぐられます。オーナー・林田佳子(はやしだ よしこ)さんの本業は、カタログやPOPなどの広告を制作するデザイナー。多忙な仕事を抱えながらも、ひょんなことからカフェを始めることに。2024年でオープン3年目。毎日行列ができる人気店をいかに創り上げたか、林田さんのこだわりについてお聞きしました。

目次

  • 飲食店未経験者がカフェを始めるために必要なこと
  • 故郷の銘茶で新たな人気メニューを生み出す
  • 集客アップにつながるSNSと写真撮影の秘訣とは
  • お客さまを惹きつけるインテリアのこだわり
  • デザイナーならではのカフェづくりの視点
  • お茶の専門性を高めてオリジナリティのあるカフェに

飲食店未経験者がカフェを始めるために必要なこと

JR中央線西荻窪駅から徒歩3分、小さな路地にある古民家カフェ「西荻3時」。長崎県の銘茶「そのぎ茶」を使ったメニューのほか、月替りのパフェや自家製ジェラートを提供しています。

東京・西荻窪にある「西荻3時」。正面扉の右側にあるレトロな時計が目印
時計は常に3時を指しているのがかわいい

オーナー・林田佳子(はやしだ よしこ)さんの本業は、カタログやPOPなどの広告を制作するデザイナーです。カフェ「西荻3時」をオープンさせたのが2021年。まだコロナ禍が続き、多くの飲食店が苦戦をしていた時期です。ある意味最悪なタイミングで、なぜカフェを始めようと思ったのでしょうか?

一番人気の「月替りのパフェ」

「いっしょに仕事をしていたフードスタイリストさんが同じ場所でお店をやっていたのですが、コロナ禍の真っ最中の2020年にクローズすることになったんです。立地的にもいい場所だし、2階建てのかわいい古民家だったので、私もなにかやってみたい! ふわっとその気になったのがきっかけでした(笑)。

2020年、2021年はデザインの仕事環境も激変し、ペンディングになった仕事もあって、経営的には大変でした。ただ、いままで忙しすぎたところに、急に時間的に余裕ができた。これは新しいことができる。そんなタイミングだったので、新しくカフェにチャレンジすることは、とてもワクワクした気持ちでした。飲食業界は客足が落ちて大変な時期でしたが、不思議と不安はありませんでしたね」

林田さんは、30歳のときから20年以上にわたり、デザイン会社を経営しています。その経営者としてのキャリアから、カフェを始めるにあたってさぞや戦略を練ったのかと思いきや、まったくの無計画だったと当時を振り返ります。

センスのいい茶器もお客さまに支持される理由

「『お店をやってみよう』と思い立って、3カ月後にはもう店舗を賃貸契約していました。そのあと、さらに3カ月後くらいにオープン。異例のスピードですよね(笑)。私自身、料理を作るスキルもありませんし、準備期間もほとんどない状態でスタートするという、無謀な状況。計画性もなくて、思いつきだけの一番だめなパターンです。

当時、デザイン会社のスタッフから『おいしいジェラートを作る会社を知っています』と言われて、じゃあジェラートを売ろう! と、これも思いつき(笑)。2階建ての店舗なので、2階でデザインの仕事をしながら、1階でジェラートを売ればいいな、と甘く考えていました」

オープン当時から人気のジェラート。ラインナップは季節によって変動あり

思いつきでスタートしたというカフェ「西荻3時」。思いつきといえど、ジェラートのおいしさと、林田さんのデザインセンスを生かしたかわいいデコレーションもあいまって、オープンから順調に集客を伸ばします。オープンした年の夏場には、行列店として話題を集めました。

くまのデコレーションをしたジェラート。名前募集で「オギゾウ(荻三)」と命名。耳がカシューナッツ、目鼻はチョコ

しかし、オープンした年の秋以降、客足が1/3ぐらいに落ち込んでしまいます。

「カフェは客単価が低く滞在時間が長いため、儲けを出すためには、それなりにきちんとした経営力が必要なんです。客足が落ちたとき、初めて自分の甘さに気づいて、一から立て直そうと思いました。

ほかの店にはないウリを作らないと続かない! かといって、自分には料理を創造するスキルもない。専門性を高めようにも、いまさら本格的なコーヒーでは太刀打ちができない。そんなとき、自分の生まれ故郷である長崎の銘茶『そのぎ茶』が頭にひらめいて、それにこだわってみようと思いました」

お付き合いのある、長崎・東そのぎの「東坂茶園」さんのそのぎ茶。こちらはほうじ茶の茶葉
「茶葉の見た目はワイルド感がありますが、じんわりと甘みがあり、ふくよかな香りと奥行きのある味わい」と林田さん

故郷の銘茶で新たな人気メニューを生み出す

長崎県のそのぎ茶は、長崎県東彼杵町(ひがしそのぎちょう)で作られている「蒸し製玉緑茶」です。茶葉が勾玉のような形に見えることから「グリ茶」とも呼ばれています。全国の品評会で優秀な成績を収めながら、生産量が少ないため東京ではあまり知る人がいない銘茶です。

「そのぎ茶がつくられている東彼杵町(ひがしそのぎちょう)は、長崎市内から海沿いを1時間ぐらい電車で走ったところにあります。海からすぐ高い山になっていて、その標高差と、海風の湿った空気で霧が発生しやすく、おいしいお茶の栽培に適しているそうです。

生産量が限られているから全国的でないですが、長崎市内ではよく飲まれています。農家のかたもシェアを広げるより、味に徹底的にこだわっていて、とても評価されています。うまみが強くて甘みがあって、渋みはほとんどないので、初めて飲むかたはみなさんびっくりしますね」

長崎県東彼杵町(ひがしそのぎちょう)で、そのぎを代表する、4つの茶農家が結集して作られた株式会社FORTHEESのメンバー

そのぎ茶の生産者は、伝統を受け継ぎながら時代に合わせて新しいことに挑戦している若手後継者が多く、林田さんのカフェ「西荻3時」にも快く協力してくれたそうです。

「私自身が『思いついたら即実行!』というタイプなので(笑)、なんのツテもない状態でお茶農家に直接連絡を入れて、『お茶を販売させてください』と頼んだんです。現在は、7軒のお茶農家さんと直接取り引きをしています」

そのぎ茶を生産者から仕入れることができ、カフェ「西荻3時」を特徴づけるオリジナルメニューが生まれました。そのぎ茶がじっくり味わえる『玉緑茶セット』や『そのぎ抹茶アフォガード』『ほうじ茶のジェラート』『冷やし抹』『抹茶ラテ』など、どれもお客さまから高評価を得ています。

『玉緑茶セット』。茶葉の様子がよく見える透明な急須と、砂時計がおしゃれ

「『玉緑茶セット』は、お湯と急須をお出しして、お客さまに自分で淹れていただくスタイルです。急須にお湯を回しながら入れて、ふたを閉めて1分。砂時計で計ってもらいます。自分で淹れるとよりおいしく感じられますし、お茶を淹れている時間そのものを楽しんでくださるお客さまも多いです。

このお茶だったらお湯は何度ぐらいがいいか、何分蒸らせばいいかなど、一番おいしく飲める方法をお茶農家さんに直接教えていただきました。『抹茶ラテ』も実際に農家のかたに飲んでいただき、そこからブラッシュアップしています。お茶を使ったレシピも教えくださるので、農家のかたの意見をどんどん取り入れて、メニュー作りに反映しています」

色のコントラストが美しい『抹茶ラテ』。ホットもアイスもある

そのぎ茶を柱にして、開店当初からの看板商品だったジェラートも、バージョンアップを図ります。小型のジェラートマシンを数台導入して、自家製で常時6~8種類を提供するようになりました。

天然にがりと国産大豆で作る『まめなとうふ店』さんの豆腐や、五島列島の天然塩を使ったジェラートもラインナップ。また、メニューには、近所の老舗パン屋さん『藤の木』のラスクを使うなど、地元食材をできるだけ使うことにもこだわりました。

「新参ものなので、地元のかたと仲良くしていきたいですし、いっしょに地域を盛り上げていきたいなと思っています。食材を仕入れる、といっても企画書を書いて……なんて堅苦しいことはせず、ふらっと訪ねていってお話してくる感じです(笑)。先方にとってマイナスでない限り、断わられることはなく、喜んでくださることが多いです」

カフェ「西荻3時」のメニューは、

  • 月替りのパフェが1種類
  • お茶系ジェラートやスイーツなど、3~4種類
  • ドリンク類

という構成になっています。このメニューもまだ変化していく可能性があるそうです。人気カフェになるための、メニューづくりのポイントはどんなところなのでしょう。

クリエイター

JR中央線西荻窪駅から徒歩3分、小さな路地にある古民家カフェ。長崎県の銘茶「そのぎ茶」を使ったメニューほか、月替りのパフェや自家製ジェラートを提供している。オーナーの林田佳子さんはデザイン会社を経営し、店舗に出るのは週末。平日は娘さんとスタッフが中心になって運営している。

編集・ライター。情報系出版社を経てフリーランスに。衣食住全般からビジネス系まで幅広く取材・ライティングを行い、飲食店での取材は約500軒を数える。人が書いた文章を読むのも話を聞くのも大好物で、取材があれば前のり上等でどこへでも向かう。

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