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東京・立川市で農業振興を推進。角田真秀さんの多機能なアンテナ

東京・立川市で農業振興を推進。角田真秀さんの多機能なアンテナ

角田 真秀, 川越 光笑

ごく一般的な素材を基本調味料で味つけし、体にしみ入る味わいを生み出す料理研究家・角田真秀さん。いままで携ってきたご著書は、『基本調味料だけで作る毎日の献立とおかず』(マイナビ出版)や、『塩の料理帖』(誠文堂新光社)など多数。

身近にある調味料だけで、しみじみおいしいと感じる料理を作るには、食材との対話力が欠かせません。そんな彼女は、ヒトに対しても同じ。「いま、何を求められているのか?」まだ言葉にならない声に耳を傾けることができるアンテナを持っているようです。料理家としての活動と、地元・東京都立川市の農業振興に尽力される日々の様子などを取材させていただきました。

目次

  • 農産物の旬を感じる暮らし
  • 「立川印」のブランディング
  • 立川市の農業と生産者の強みとは
  • “要素を増やす”ということ
  • これからの活動について

農産物の旬を感じる暮らし

料理研究家として多忙な日々をおくりながら、東京都立川市を拠点に、都市農業の振興にも注力されている角田真秀さん。顔のわかる地元の生産者から農作物を購入し、旬の食材がいつも食卓にある暮らしを実現されているそうですが、農業に関心を抱かれたきっかけは何だったのでしょうか。

料理研究家・角田真秀さん

「私は、東京の下町に生まれ育ったため、周りには大手スーパーしかありませんでした。地域の直売所などもなく、野菜はスーパーで購入するもの。そんな中で、20代のころに多摩地域のカフェで飲食事業部の立ち上げを経験し、住んでいる地域にも農産物があることを知りました」

カフェの飲食事業部で料理の下積みを重ねながら、地域の農家さんがつくる生産物が気になり始めた角田真秀さん。周りを見渡せば、ぶどうやいちごを作る生産者が、多くはないですが存在していました。

そうして休みの日には、自分の足で探して買い求めるようになっていったとか。時を経て、角田真秀さんの気持ちを大きく揺さぶられるような出来事が起きたのは、2011年の東日本大震災だったといいます。

角田真秀さんのお買い物の様子

「当時はカフェで働くのを辞めて、飲食業をしていた両親の手伝いをしていました。それまでも都心に住んでいることへ違和感を感じていましたが、震災があったことで街に住んでいることへ疑問を抱きました。自分で住んでいるところで、食べるものを賄えないということに抵抗があったのです。

家業を継ぐという選択肢もなかったので、これから料理の腕をさらに磨くというよりは、だれよりも農産物のことを詳しくなりたい。その年に、夫と都心の中心部から少し外れた国立市へ引越しました」

角田真秀さんの日常の料理風景。地元の夏野菜を使って。旬の野菜がそばにある豊かさを想像できる一枚
近隣の農家さんとの交流も大切な時間(東京・国分寺の糸萬園にて)

「立川印」のブランディング

移転先を選んだのは角田真秀さんでしたが、待っていたのは、その土地のほうだったのかもしれません。以前から、ご主人とフードユニット「すみや」として活動する傍ら、料理研究家としてテレビなどにも出演。地元の農産物を使いながら、そのおいしさを発信していた角田真秀さんに白羽の矢が立ちました。

角田真秀さんと夫・和彦さん(撮影/千葉 諭)

「2022年に立川市役所様からお声がけがあり、『立川印』という、立川市の農業を拡めるブランディング周知のお手伝いをしています。

具体的な取り組みとしては、立川市内の農園で野菜の収穫体験もできる料理教室の企画の進行や、『立川野菜通信』というフリーペーパーの企画を担当するなど、立川市の農業の広報に関わらせていただいています。

2024年の『立川野菜通信』は、初夏と秋の2回発行。初夏のテーマは「なす」、秋は「柿」をピックアップし、旬の食材を使ったレシピを掲載。柿も野菜といっしょに料理に使用できる、ということを知って欲しくて取り上げました」

旬の果物は季節の恵みです。新鮮なものを入手できるのも、近隣にいる生産者さまのお陰(撮影/松村隆史)

『立川野菜通信』は、市役所や地元の野菜を使っている飲食店などに配布中。また、角田真秀さんはフリーペーパー『すみやの日々』を不定期で発行しており、読者が行ってみたいと思える街並みや地元農産物などをていねいに紹介しています。

『立川野菜通信』(左3冊)と、『すみやの日々』(右)

角田真秀さんの広報活動はほかにも、立川市内の農産物を使った催事への参加を進めているとか。こうした市役所との連携は、引越しを決めた10年前には想定していなかったはず。

長年、地道に地元の農家さんとのやり取りを続け、信頼関係を築いてきたからこそ、最適な人材として選ばれたに違いありません。とはいえ、市役所と生産者さんを結ぶやり取りにご苦労はないのでしょうか。

「企画を立てたり、課題を整理するのが得意なのです。進行管理もしています。進行管理は得意かどうかわかりませんが、私がやらないと進まないのでやらせていただいています(笑)。

農家さんごとに売り方の手法も違うし、抱えている問題も異なります。最初は、市役所と生産者さんの間に入ろうと思いましたが、無理だと気がつきました。とにかく情報を整理して、最大公約数でまとめていく作業をしています」

たぶん、ご本人も気がついていないかもしれない。「私がこうすることで周りがラクになるから」というフレーズがよく出てくる。常に自分が何を求められているのか。どうすれば問題をスムーズに解決できるのか。周りを俯瞰し、かゆいところに手が届くアンテナを働かすことができるのは、角田真秀さんにとっては当たり前のことなのかもしれません。

立川市の『JAみのーれ』の10周年記念の料理教室の風景

立川市の農業と生産者の強みとは

クリエイター

東京都出身。美術系の短大を卒業後、販売員を経てカフェのオープンに携わる。家業の手伝いを経て、2015年に料理研究家として独立。夫である角田和彦と共に料理ユニット「すみや」を開始。以降、企業のレシピ監修や雑誌へのレシピ提供を中心に書籍出版も行う。

「ヒトは食べたもので体がつくられる」をモットーに“食と健康”をライフワークとする。日本の食文化に関心が高く、著書に『おにぎり~47都道府県のおにぎりと、米文化のはなし~』(グラフィック社刊)がある。2024年現在、管理栄養士としての執筆活動にも力を注いでいる。

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