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「ポップアップレストラン」に挑戦中。SHINOBUさんの試みと探求

「ポップアップレストラン」に挑戦中。SHINOBUさんの試みと探求

SHINOBU, 狩野 厚子

不定期にオープンする「ポップアップレストラン」を主宰している、フードコーディネーターのSHINOBUさん。最近しばしば耳にする新しい飲食店の業態ですが、そもそもポップアップレストランとは何か、その運営の方法や、SHINOBUさんが主宰しようと思ったきっかけとは。SHINOBUさんが経験されてきた食の仕事と、現在地についてもお聞きしました。

目次

  • ポップアップレストランとは?
  • お店の運営、メニュー、接客、調理、集客はどうしている?
  • さまざまな「食の仕事」の経験を経て、「ポップアップレストラン」へ

ポップアップレストランとは?

日時や場所など、不定期に開かれるレストラン

東京・東上野でポップアップレストランを不定期でオープンしているSHINOBUさん。ほかにも、企業のレシピ開発やSNSの料理撮影、出張料理、料理教室「コトラボ阿佐ヶ谷」の講師、テレビ番組のアシスタントなど、さまざまな食関連の仕事をしつつ、1カ月~1カ月半に1回程度のペースで、ポップアップレストランを開いています。

フードコーディネーターのSHINOBUさん(撮影/木村文平)

「ポップアップレストラン」とは、比較的短い期間限定で、一時的に開設・営業されるレストランのこと。「ポップアップ」とは「突然現れる」といった意味合いで、ポップアップストアのレストランバージョン、といえばイメージしやすいかもしれません。
通常の常設の飲食店とは違い、決まった日や時間にだけ営業するのが特徴。場所は空き店舗やレンタルスペース、カフェなどさまざまな場所を利用していることが多く、同じ場所で不定期に営業をする場合もあれば、主要拠点がいくつかあって、さまざまな場所で営業しているケースも。

主催者の意思で日程や時間を決めることができ、多額の設備投資もかかりません。手軽に自分のレストランを始められることや、近年、店舗として一時的に借りられるスペースが増えてきていることから、食を仕事にする人のあいだでじわじわと関心が高まっています。とはいえ、まだまだ未知の部分も多い業態。SHINOBUさんにその運営ノウハウや、リアルなお話をお聞きしました。

お店の運営、メニュー、接客、調理、集客はどうしている?

下見を重ね、「ここでやりたい」と思える場所に出会う

SHINOBUさんがポップアップレストランを開く場所は、2023年現在、いつも決まったところ。JR上野駅から徒歩5分という好立地にあるカフェです。2階建てのお店の2階のスペースを借りているのだそう。

「レストランに使えそうな場所は、主にインターネットで探しました。お店の雰囲気や規模、立地や借りられる時間、レンタル料金、家からのアクセスなどを考えると、なかなかしっくりくるものがなくて。いまのお店は、友人が送ってくれた情報サイトで見つけたんです」

元工場だった建物を、当時の雰囲気を残しながらおしゃれに再生してある店内。手作りの木製家具や、観葉植物がたくさん配置された居心地のよい空間もSHINOBUさんの好みに合い、「ここでポップアップレストランをやりたい!」と思いすぐに連絡。お店のオーナーに打ち合わせと面接をしてもらうことに。細かい話し合いを行い、ついに実施することが決まりました。

東京・東上野にあるカフェ「Route Common」
東京・東上野にあるカフェ「Route Common」。ゆったりと落ち着ける雰囲気です

メニューは「おいしい」に、とことんこだわって

SHINOBUさんはそのカフェで、1カ月~1カ月半に1回のペースでポップアップレストランを開いています。調理をするのはSHINOBUさん1人。ポップアップレストランを始めてまだ1年未満ですが、今までに10回ほど開催しました。

料理はいまのところディナーのみで、イタリアンベースのカジュアルなコース仕立てが中心。メニューを考えるうえでSHINOBUさんがとことんこだわっているのは、自分で「おいしい」と心から思える料理。お店ならではの発見や感動、季節感を感じられる料理でありながら、家庭料理のようにどこかホッとできる味を提供することです。

「お客さまはこんなにいろいろな飲食店があるなかで、私のお店を選び、貴重な時間とお金を費やしてくれています。その時間を絶対無駄にはしたくなくて、心から料理を楽しんで、笑顔で帰っていただきたいんです」

料理はどれも「絶対においしい」と自信をもって思える味になるまで、ブラッシュアップを重ねます。いちどレシピが決まってからも、完成度を上げたいという気持ちから、少しでも手が空くと何度も何度も試作を繰り返してしまうそう。ときには、開催前日まで材料や調味料の微調整を続けることもあるとか。味だけではなく、「当日作ったほうがおいしく感じるか、前日に作って味をなじませておいたほうがいいか」など、考え出すとキリがないと語ります。

「1回の営業日が終わる前に、次回の会のことも同時に考えはじめます。1~2か月、メニュー構成や食材、レシピをずーっと考えて、試作して……の繰り返しです。そこまでして考えたレシピでも、食にはそれぞれ好みがあるので、お客さまの口に合うかは料理を提供するその瞬間まで、いつも不安です」

旬の食材や季節感、視覚的な楽しさ、食べ飽きない味の構成、さらには1人で調理を行うためのオペレーションなど。さまざまなポイントを熟考しながらレシピの改善を続け、その末に完成した渾身の料理の数々が提供されているのです。

前菜プレート。季節のフルーツとチーズのマリネ、生ハム、自家製セミドライトマトを使ったクロスティーニなど
初回の月の前菜プレート。季節のフルーツとチーズのマリネ、生ハム、自家製セミドライトマトを使ったクロスティーニなど
メインディッシュ。ポークグリルに夏野菜のサルサソースを添え
ある月のメインディッシュ。茨城県の山西牧場のブランド豚「三右衛門」を使ったポークグリルに、夏野菜のサルサソースを添えて
生チョコケーキ
バレンタインが近い時期のデザートで提供した「生チョコケーキ」。「生チョコの食感にこだわり、何度も試作調整し、コーヒーにも赤ワインにも合うように仕上げました。ありがたいことに、バースデーのお祝いの席に使っていただいたことも!」

準備や調理、片づけは、限られた時間の中で体力と頭をフル回転

クリエイター

大手料理教室やレストランでの経験を積み、2013年に(株)オレンジページに入社。体験型スタジオ「コトラボ阿佐ヶ谷」の運営と、料理講師を兼任。 イベントのディレクション、食品会社やカフェのメニュー開発・レシピ提供などを手がけ、2022年にフリーランスに。「みんなが笑顔になる料理!」をモットーにレシピ考案するほか、ポップアップレストランや出張料理でも活躍中。

フリーライター。ファッション誌編集部などを経て、オレンジページに入社し、広告編集、ネット編集などの部署で10数年在籍したのち独立。現在は料理・生活まわりの記事の執筆・編集、電子書籍の制作を行う。近著に書籍『オレンジページPlus』シリーズ。

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