大阪都心部から電車に乗って小一時間。大阪府八尾市の工業地帯にある藤田金属株式会社は、鉄フライパンなどを製造販売する家族経営の町工場。実用とデザインを兼ねそろえた、いままでにない調理器具を生み出して注目を集めています。「おもろいことをやっていきたい」と話す、4代目社長・藤田盛一郎さん。家族経営のメリットや、ものづくりの考え方、今後の取り組みなどを伺いました。
目次
- 家族経営の強みを活かしたものづくり
- 人材育成と今後の課題
- 藤田金属が取り組む“おもろいこと”
- 先代から託された思いに応えて
家族経営の強みを活かしたものづくり
藤田金属は『暮らしを豊かにする金属』をスローガンに、1951年、藤田盛一郎さんの祖父・藤田健次さんが大阪府大阪市で創業。その後、1971年に同府八尾市に本社と工場を全面移転させ、2024年に創業73年を迎えました。
2代目社長には叔父・藤田憲正さん、3代目は父・藤田俊介さん、そして2020年12月に4代目として現社長・藤田盛一郎さんが就任。
代々引き継がれてきた家族経営について、藤田盛一郎さんはどのような思いや考えを持たれているのでしょうか。
幼少期から大学までブレなかった気持ち
「うちの会社は、僕の祖父が30歳のときに起業して作った会社です。小さいころから『社長さんになるんやぞ』と祖父に言われ続けてきたこともあって、“将来はここで働く”と当たり前のように思っていました。
当時は、祖父や父が何の仕事をしているかもあまりわかっていなかったですし、“社長になればいい暮らしができるんやろうな”ぐらいの考えだったと思います。大学まで進学しましたが、途中で何かになりたいとかそういうふうなことは考えたことはなかったですね」
と語る藤田盛一郎さん。
では、藤田金属で働く未来を想像していく過程で、外に出て、社会人経験を積む選択肢は考えなかったのかとたずねると、「考えなかったです。その必要がないくらい、めちゃくちゃ数字に追われる経験をすでにしていましたから」と言います。
“数字に追われる経験”とはいったい?
「高校1年から大学4年まで、ガソリンスタンドでアルバイトをしていました。そこでは、自分が担当した給油や洗車、タイヤ交換などがすべて自分の実績になって、時給に反映されるシステムだったんです。
しかも、毎週系列6店舗分の全スタッフの実績が共有される。それを見れば、誰が何時間働いていくら稼いだかがわかるんです。“どうすれば洗車してもらえるか“、“なんて声をかければタイヤ交換してもらえるか“みたいな営業経験をできたのは、めちゃくちゃ大きかったなと思います」
高校生のときから、数字を読んで結果を出す経験をされていた藤田盛一郎さん。ちなみに、藤田さんの実績はというと……
「100人ぐらいスタッフがいる中で、常に3位には入っているみたいな感じでした。当時、時給750円スタートで最大1,300円。僕、高校2年の終わりには、時給1,300円でしたから結構優秀だったと思います(笑)」
自社で一貫して行うものづくり体制
藤田盛一郎さんは、三人兄弟の長男。三人で力を合わせ、藤田金属を運営しています。効率よく運営するため、業務の割り振りをし、チームワークを発揮。
- 長男・盛一郎さん/営業、開発
- 次男・信二郎さん/プレス加工(※1)やへら絞り(※2)などの量産
- 三男・幸三郎さんと父・俊介さん/金型(※3)担当
※1 プレス加工……機械に金属板をセットし、上下から強い力で挟み込むようにして、おおよその形を作る工程
※2 へら絞り……高速回転させた素材に対して「へら」をゆっくり押し付ける、金属板をと伸ばし、鍋やフライパンの形を作る工程
※3 金型……製品を繰り返し作るための金属の原型のこと
日本のものづくりは、金型は金型工場で、プレスはプレス工場で、といったように分業体制がほとんど。ですが、藤田金属は金型から加工、販売までを、すべて一貫して自社で行なうことができるのです。
外部に委託する“分業体制”が主流である町工場で、一貫した自社製造にこだわってきたのには理由があります。創業者である祖父・藤田健次さんの『ほかができること、なんでうちはできへんねん』という言葉。この考えがあってこそだそう。
自社で一貫してものづくりを行うことに、なにかメリットはあるのでしょうか。
「一番は、やっぱり費用を抑えられるところですかね。たとえば、金型って、外注すると結構お金がかかるんです。でも、自社で作ることによって費用も抑えられますし、使わなくなった金型が出てきたら、それに修繕を加えて、新たな商品の金型にすることもできます。そうすると、次の商品の原価も安くできますよね。
外注していると、なかなかスムーズにいかないことも、自社ですべてやっているので、柔軟な対応ができます。さらに、それを家族内でやっているので、理解や対応が早く、緻密にやり取りができて、より精度の高いものづくりにつながっています」
尊重し合いながら家族と働く
一方で、家族だからこそ苦労する場面もあるようで……
「家族なんでね、どうしても言い方がきつくなったり、そっけない態度になったり、ということはあります(笑)。ただ、それぞれ担当している部門が違うので、自分ができない分野のことは、余計な口は出さずに相手を尊重して任せています。任せられるのは信頼しているからだし、信頼できるのは家族だから、というのもありますよね」
一貫した自社製造だからこそできる、緻密なものづくり。そして、家族だからこそできる信頼のものづくり。藤田金属のものづくりへの思いや考えが伝わってきます。
人材育成と今後の課題
三兄弟を中心に、少数精鋭の藤田金属。ですが、社内にはご家族ではないスタッフの姿も。家族経営のなか、採用や人材育成についてはどのように取り組んでいるのでしょうか。
平均年齢37歳、若い人が働く町工場
「最近の採用に関しては、ありがたいことに、商品を知ってくれて、若い人が集まっています。社内の平均年齢は37歳。僕が知る限り、町工場でそんなに若返っているところは、正直あまり聞いたことがないです。
でも、昔はうちも、求人を出せば、定年を迎えたかたや、『プレス加工を何十年やってきました』というかたばかりでしたよ」と藤田盛一郎さん。
「ところが、いま求人を出すと、20~30代ばかりですね。藤田金属を知ってくださっているからこそですし、それはとてもうれしいことでもあるんですが、スタッフが若返ったことによって引き起こされた問題もあって。2年前に実際に起きたのが、“品質の低下”でした」
「たとえば、経験のあるベテランスタッフは、これをしたら傷が入る、凹みが生まれるということを予測できるんですが、経験の浅いスタッフはわからない。わからないからそのまま製造ラインが進んでしまい、結果、フライパンを500個も捨てなあかん事態になってしまい……。
本当にそこからは、全員の意識を高めるために、毎週朝礼で品質の話をして。若い人が増えるのはめちゃくちゃいいんですけど、このときばかりは“若返ればいいわけでもないんやな”と痛感しました」
採用はご縁とタイミング
若いかたが増えたと聞きますが、みなさん、藤田金属が出す求人に応募されて入社する流れだったのでしょうか。
「基本は応募ですが、そうではないスタッフもいます。今入社2年目の栗田は、かなり特殊なパターンですね。2021年にコロナ禍の巣ごもり需要に、藤田金属のフライパンがハマって、関西のテレビ各局が取材に来てくださっていた時期があったんです。
その取材された番組を栗田がたまたま見ていたようで、募集していなかったのに、お問い合わせフォームに『新卒採用していませんか?』って送ってきたんです。初めは『そんなんしてるかって言っとけ!』って感じだったんですけど、なんかおもろいから一回来てもらおうと(笑)。
実際に来てもらって彼の話を聞いたら、すでに大手の電気機器会社に内定もらっているのに、そこを蹴ってうちに来たいと言うんですよ。本当に『親が泣くからやめとけ』と言って、その日はそのまま帰しました(笑)。
1~2カ月後に東京で大きな展示会に出展するタイミングがあり、『手伝いに来るか?』とこちらから声がけを。そして、展示会最終日に改めて本人の意思を確認して、その場で内定を出しました。
彼は入社までには、CAD(キャド ※1)やIllustrator(イラストレーター ※2)を勉強してきてくれて、今まで僕たちが手書きでやっていたことを、全部パソコンでやってくれるようになりました。オレンジページさんと、料理研究家・ツレヅレハナコさんがコラボした『鉄製ミニ揚げ鍋13cm』の図面は、まさに彼がCADで作ったものです」
※1 CAD……Computer Aided Designの略で、設計や作図をするためのツール
※2 Illustrator……Adobeが販売するグラフィックソフトウェア
「こんな出会いもあるんやなと。おもろいですよね。うちは人を増やしていく予定は今のところあまりないんですが、僕は個性を重視しているので“あまり普通じゃない人”に来てもらいたいですね(笑)」
技術の向上には風通しのよさも必要
長年品質をキープして、いい商品を生み出すためには、技術を伝承することが大切。会社として、工夫していることはあるのでしょうか。
「工場ですし、基本的に自社製造なので、さまざまな機械を扱っているんですよね。それぞれの使い方を覚える必要があるのですが、すでに導入している機械に関しては、歴が長いスタッフがていねいに若手に教えています。
歴が長いほうが詳しいのは当たり前。ですが、一方的になるのは避けたいところです。教えられた側が疑問に思ったり、『こうしたほうがよくないですか』と言えるような、風通しのよさも大切にしています」
「一方で、自社で溶接をするようになったのは、ここ何年かの話で。藤田金属独自の加工『ハードテンパー加工(※)』を始めたのも7~8年前と、わりと最近。新たな加工や導入機器取などに関しては、歴など関係なく、みんなゼロベースなんです。みんなで『こうしたらいい』『ああしたらいい』と意見を出し合いながら、全員でスキルアップを目指しています」
※ハードテンパー加工……藤田金属独自の加工。鉄板の温度が700度になるまで高温のバーナーで焼き、一定時間冷ましたあと、オリーブオイルをなじませることで、通常の鉄フライパンで必要な「油ならし」が不要となる
中途半端なものづくりはしない
「大手通販サイトをはじめ、オンラインショップには、リアルな意見が書き込まれる“レビュー”がありますよね。だから、中途半端な商品を作れば、確実に崩れます。すぐに商品が死んでしまうんです。
僕が現場に言いつづけているのは、『本物を作れ』です。たとえば、フライパンは300~500ロットで作ります。僕らからしたら500個ある中の一つだけど、お客さんにとってはたった一つです。
もし不具合があれば、499個本物ができていても、不具合のあった1つでよくない評価を受けてしまうかもしれない。なので、現場にも一つ一つを大切にしてほしいと伝えています」
平均年齢37歳の若いスタッフたちに、「本物を作れ」と語る藤田盛一郎さんの熱い言葉。藤田金属が活気ある町工場であることが垣間見れます。
藤田金属が取り組む“おもろいこと”
クリエイター
1951年、大阪府の工場街でアルミニウム製金物の製造販売からスタート。アルミ製品ほか、鉄フライパンや鉄鋼などの金属製品を、金型から加工までほぼ一貫して自社製造している。職人の確かな技術と実用性の高さ、すぐれたデザインの融合に定評がある。デザインユニットの共同開発や他社とのコラボも積極的に行う。
フリーライター。大阪在住。大学卒業後、株式会社オレンジページでアルバイトとして現場や料理を学んだのち、兵庫県・神戸の帽子ブランド「mature ha.」に就職。退職・出産を経て、ライターとして活動開始。好きか嫌いかはひとまず置いといて、とりあえずやってみるタイプ。今日も夕飯の献立を考えながら暮らしている。