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お粥研究家・鈴木かゆさんが広げる「お粥ワールド」

お粥研究家・鈴木かゆさんが広げる「お粥ワールド」

鈴木 かゆ, 唐澤 理恵

毎日お粥を作り続けるお粥研究家・鈴木かゆさん。Instagramや公式サイトを通じて、お粥のレシピや食文化を発信し続けています。取材中、「一緒にお粥研究家やりませんか? お粥研究家募集中です!」と笑顔で話す、天真爛漫なお人柄も魅力的。なぜそこまでお粥に魅せられたのか。発信の工夫、SNSとの付き合い方、「お粥を〈世界のOKAYU〉に」という意気込みなど、あふれる〈お粥愛〉に迫ります。

目次

パンにもカレーにもなかったものが、お粥にあった

毎日増える、驚愕のお粥バリエーション

お粥と聞くと、あの真っ白でとろとろとしたビジュアルとともに、〈健康〉〈養生〉などのキーワードが思い浮かぶもの。しかし、こちらをご覧ください。

チリトマト粥
「チリトマト粥」!

こんなお粥や、

ポルチーニ粥
「ポルチーニ粥」!

こんなお粥、

はちみつクリームチーズ粥
なんと「はちみつクリームチーズ粥」!

こんなお粥まで! 「お粥ってこんなにバリエーションがあるの!?」と驚かされます。

これらのお粥を発信しているのが〈お粥研究家〉の鈴木かゆさん。色とりどりのお粥の写真が並ぶInstagram(@kayu_szk)の投稿にも目を見張りますが、出色なのは、鈴木さん自ら運営するサイト「おかゆワールド.com」です。

掲載されているのは、これまで作ったお粥レシピをはじめ、日本と世界のお粥食べ歩きレポート、歴史や食文化を紐解く〈お粥考〉まで、ありとあらゆるお粥情報。サイトのトップにある〈日本一マニアックなお粥の研究サイト!〉の文字に偽りなし!

これまで、どのくらいのお粥を作ってきたか尋ねると……。

「作った種類の数は、もはやわからないくらいなんです。基本的には、毎日、朝ごはんのときに新しいレシピでお粥を作るんです。2種類以上作るときもあるし、それ以外の時間に追加で作ることも。

お酒が好きで、酔うとお粥を作りたくなっちゃうんですよ(笑)。だから急に夜作るときもあって。更新が間に合わないので、すべてをサイトに載せるのは、とうにあきらめています(笑)」

鈴木かゆ
満面の笑みで「粥」の字を掲げる鈴木かゆさん。とてもチャーミングでお話上手なかたです

ほとばしるお粥への熱量! しかし、なぜこれほどまでにお粥を愛するようになったのでしょう。

「私はもともと、腹時計で生きているような人間で(笑)、とにかく食べることが大好きなんです。これまでもいろんな“マイブーム”がありました。オートミールブーム、パンブーム、サンドイッチブーム、ラーメンブーム……スパイスカレーブームもありました。ただ、以前の私は、とにかく“暮らしが下手”だったんですよ」と、返答が。

暮らしが下手とは、つまりこういうこと。

  • おいしいと思ったらドハマりして、ひたすらそれを食べ続ける。
  • 自分でも作ってみたくなり、作り始めたら熱中して、家事は後まわし。
  • 睡眠時間も削ってしまう。

「『やってみたい』と思うと、つい生活を犠牲にしちゃうんです。『ちゃんとしなきゃ』と思うのに、性格上できなくて。それがすごくコンプレックスでした」

なぜか落涙。コロナ禍でお粥に救われて

そんな調子で20代を過ごす中、生活が一変する事態が。新型コロナウイルスのまん延です。当時、IT系企業の会社員だった鈴木かゆさんは、在宅勤務を余儀なくされ、必然的にスローペースな暮らしが始まりました。

「この際、ずっと後まわしにしていたことをやろうと思って、朝ごはんをちゃんと作ってみたんです。お米は家にあるし、体にやさしそうだから……と、たまたま作ったのがお粥。白米を炊いて、梅干しを乗せただけのシンプルな白粥です。

作っている最中、お米が炊ける甘い香りをかいでいたら、なぜか涙が出てきて。できたお粥を一口食べたらおいしくて、またわーっと涙が出る。

たぶん、コロナ禍の生活に疲れていたんでしょうね。『今、自分にやさしくしてるな』っていう感覚になったんです」

初めて作ったお粥 梅干し シンプル 白粥
初めて作ったお粥は、梅干しを添えたシンプルな白粥。今でも一番リピート率が高いそう

お粥は、パンのように発酵させることもなければ、スパイスカレーのようにテンパリングをすることもない、地味な料理。それでいて、生米から炊いて作ると、意外と時間がかかります。

「こんな料理、コロナがなければ作らなかったかもしれません。でもそれ以来、気づけば毎日お粥を作るようになっていました。ちょっと食材を足してみたら、全然違う味、違う料理になるのもおもしろくて」

外出もせず、曜日感覚もなくなる日々のなか、「今日のお粥はおいしかったな」「明日は何のお粥を作ろう」と考える時間が、暮らしに彩りと幸せを与えてくれたそう。

白粥 白かゆ
生米からゆっくり煮込んで作ると、こんなにふっくらした仕上がりに。でき立てが一番おいしいそう

その後、お粥作りが日課となった鈴木かゆさん。作り続けるうち、「かわいいお粥写真をアルバムみたいにしたい!」と思うようになり、Instagramのアカウントを立ち上げ、写真をアップし始めます。

最初は“自分の記録用”として始めたものの、少しずつ「レシピを知りたい」と言ってくれる人が現れます。それまで考えたこともなかったお粥のレシピ化でしたが、リクエストに応えようとレシピを考え始めた鈴木さんは、あることに気づきます。

ネットなどで見つけやすいお粥のレシピは、すでに炊かれたごはんを使った時短系か、プロの料理人が解説する至極ていねいでトラディショナルな方法がほとんど。

「お粥って、こんなに知名度の高い料理なのに、“時短”か“究極”かの二択みたいになっていて。楽しく、ゆるく、『こんなお粥もおもしろいよ!』ってスタンスのレシピがないな、と思ったんです」

カラフルなお粥がずらり! 見ているだけで楽しくなるInstagramです

まだ知られていないだけ。お粥の世界は無限大!

これまで、無数のお粥レシピを紹介してきた鈴木かゆさん。いつも心がけているのは、“裏切りやすいレシピ”にすることだと話します。

クリエイター

24時間お粥のことを考えている人。「食事でじぶんを整える」をテーマに、毎朝の自分の体調に合わせたおかゆを作っている。お粥を作るのも食べるのも見るのも大好き。各種SNS、メディアにてお粥レシピ・レポ・歴史・文化などを発信中。著書に『日本、台湾、韓国etc. ととのうおかゆ365日』(KADOKAWA)。

フリーライター。東京・多摩で生まれ育ち、百貨店、出版社勤務を経てフリーランスに。日本各地の店舗や生産者のもとを訪ね、食の媒体を中心に執筆。趣味の飲み歩きが高じ、ライターのかたわら、日本酒やビール、ワインを扱う酒販店にも勤務。

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