Articles
料理家・大庭英子さんが愛する「かご」と「ざる」の魅力

料理家・大庭英子さんが愛する「かご」と「ざる」の魅力

大庭 英子, 待本 里菜

基本をふまえながらもアイディアに満ちあふれ、素材を生かすシンプルなレシピを日々提案している料理家・大庭英子さん。打ち合わせや撮影でご自宅(兼スタジオ)に伺うと、どこに視線を移してもかごやざるが目に入り、自然素材の温もりを感じる素敵な雰囲気が漂います。そんな大庭さんに、収集し始めたきっかけや目利きのコツを伺いました。

目次

  • 子どものころから身近だった暮らしの道具 
  • 一期一会で選ぶ。買うときのポイントは実用性の確かさ 
  • ポンと引っ掛けるだけ。壁かけ収納でカビ知らず 
  • ひとつで何役にも!料理家の仕事を支えるざるの実力

子どものころから身近だった暮らしの道具

エコバッグという言葉が登場するずっと以前から、通気性がよく、軽くて便利なバッグとして使われてきた天然素材のかご。米をとぐ、野菜を洗う、水をきる……。いろんな用途で台所に並んでいた大小のざる。生活スタイルの変化や安価なプラスチック製品に押され、目にする機会が減った手作りのかごとざるですが、天然素材ならではの機能性と風合いは、いつの時代にも古びない魅力を宿しています。

料理家として40年近く活躍してきた大庭英子さんは、昔ながらのかごとざるを長年愛用してきたひとり。その出会いは幼いころにさかのぼります。

「春先になるとつくしを採りに行ったりするでしょう? そういうときに子どもが持っていく小さなかごを、故郷の福岡では“花かご”って呼んでいました。毎年、春になると自転車とかバイクとかで近所に売りに来ていたんです。初めて買ってもらったのは、小学生になる前だったんじゃないかしら」。

持ち手のついた竹製のかごを手に、子どもたちが萌え出ずる野原へ。小鳥のさえずりも聞こえてきそうな、うららかな春の風景です。いまご自宅にある“花かご”は、後にお姉さんが見つけて贈ってくれたものだそう。

「懐かしくてうれしかったですね。いまは花かごとしてではなく、洗濯ばさみを入れたり、ちょっとした小物入れとして使っています」。

大庭英子さんの幼い日の思い出につながる竹製の“花かご”

子どものころに行商から買った“花かご”は「大分県周辺で作られたものじゃないかと思います」と推測する大庭さん。大分県は質のよい竹の産地として知られ、竹細工が盛んな土地柄。その歴史は古く、別府地域では1世紀ごろから竹で編んだかごやざるが使われていたと伝わっています。江戸時代に温泉地として有名になると、別府の竹細工は土産物として人気が高まり、日本中に知られるようになりました。

現在、別府には、竹工芸を学べる日本で唯一の公立職業訓練学校「大分県立竹工芸訓練センター」があり、国から伝統工芸品として指定された「別府竹細工(※)」の技術を次世代へ伝えています。

(※別府竹細工……主に大分県産の真竹を使用。伐り出した竹を天日に干して乾燥させ、油分を抜く下処理「晒し(さらし)」を施したあと、細く薄い竹ひごをつくり、編んでいく。「晒し」は2カ月以上の期間を必要とし、終えると青かった竹はつややかな象牙色に変化する)

一期一会で選ぶ。買うときのポイントは実用性の確かさ

「土地柄も関係しているのかもしれませんが、実家にも竹のかごやざるがいっぱいありました」。かごとざるは、暮らしの道具として身近な存在だったと語る大庭英子さん。上京し、料理家となったご自身が集め出したのは30年ほど前。

「桜上水のそば、甲州街道に面したところに専門店(※)があって、そこにけっこう通いましたね。売っているだけでなく、お店の中で職人さんが作っていて、編むための竹ひごがたくさんおいてありました」

(※甲州街道沿いはかつて竹細工専業者が集まっていたエリア。1907年創業の老舗『竹清堂』は、竹細工を製造・販売する専門店として、甲州街道に面した東京都杉並区で2021年まで営業。現在は山梨県北杜市へ移転)

選ぶときに大庭さんが最優先するのは、シンプルで丈夫なこと。「日常的に使える、実用本位のものが好きなのね。竹細工には愛でて楽しむ繊細な花器もありますが、私は芸術品にはあまり興味がなくて。道具として頼れることが大事で。“何に使おうか”と用途を考え、手に持ってみて“いいな”と思ったら買うという感じです」。

海外製の安価なモノは「一見天然素材だけに見えても、隠れたところをワイヤーなどで補強しているものもある」ので、隅々まで確認することが大切と話します。目で見て、手で確かめて、持ち帰る。出会いを大切に吟味して買ったかごとざるは、一生ものに。

かごもざるも編み目がきれいで、しっかりした作りのものが大庭さんの好み

「集中して揃えていた一時期は、戸隠(とがくし)に遊びに行きがてら買ったりしていた」そう。古くから信仰を集めた戸隠神社の参拝客が土産に買い求め、広まっていったという長野県・戸隠の根曲竹(ねまがりだけ※)細工。いまも数軒の専門店があり、親から子へ代々引き継がれてきた伝統的な技術によって製作されています。

(※根曲竹……竹という呼び名ながら、豪雪地帯に自生する笹の一種。弾力があって割れにくく、りんご収穫用のかごに使われるほど強度のある素材。戸隠では地元で採れる根曲竹の採取・加工から仕上げまで、一貫して一人の職人が行う)

山の気が満ちる里で受け継がれてきた手仕事は、素朴な趣きと実用を旨とした力強さが特長です。戸隠名物のそばを盛る“そばざる”も然り。ほかの地域のそばざるよりも厚みがあり、水ぎれのよさと長年使える堅牢(けんろう)さに定評があります。

クリエイター

料理家、福岡県出身。基本をふまえながらも、アイディアに満ちあふれる料理を日々提案。身近な材料と調味料の組み合わせが絶妙で、大胆で素材を生かすシンプルなレシピが人気。生活情報誌『オレンジページ』をはじめ、数多くの雑誌や書籍で活躍中。

東京生まれ。タウン情報誌編集部、広告プロダクションを経てフリーライターに。主な仕事のジャンルは、旅ルポ、インタビュー、ラジオ番組スクリプト、商品コピーなど。動植物などの自然、書籍、映画、古典芸能などのエンタメ系が好き。

SNSでシェアする

いま人気のテーマ