再現性が極めて高いレシピで評判の料理家・髙山かづえさん。そのレシピの裏側には、熱心な研究と緻密な試作の日々があります。仕事の依頼を受けてから、最終的に依頼者側にレシピを提出するまでの、髙山さんが大切にしていることやレシピの生み出し方を語っていただきました。
目次
- 仕上がりのイメージをしっかり固めることが大切
- レシピでいちばんこだわっているのは高い〈再現性〉
- いろいろな意味で思い出深いのは「フライパンちぎりパン」
仕上がりのイメージをしっかり固めることが大切
レシピを考える以前に欠かせないこと
ふだん、出版社などのメディアや食品メーカーなどから、レシピ考案のお仕事をいただくことが多いんですが、依頼元がどこであってもまず最初に考えるのは、「誰にレシピを届けたいのか?」ということです。雑誌であれば、どういう人が読者層なのか。食品なら、どういう層を想定して作られたものなのか。そこで、依頼元の担当者さんとの最初の打ち合わせでは、レシピを読む人がどういう人なのかをいちばん大事にヒアリングしています。
それによって、どういうレシピが受け入れられるのかが変わってきますよね。たとえば、シニア層がターゲットの雑誌だったら、脂っこい料理やジャンクなものを提案しても、それは読者のかたには響きません。なので、シニアのかたが食べやすくて、シンプルだけど簡単に作れるようなレシピを考えるようにしています。また、レシピが長くなると、どうしても誌面の文字が小さくなってしまうので、シニアのかたが読みやすいように、なるべくレシピが長くならない料理を、ということも同時に考えますね。
依頼者の頭の中にあるイメージをとことん探る
実際にレシピを考えるまでに行うことで重要だと思っているのが、依頼元の担当者さんが、どういう仕上がりをイメージしているかをしっかり理解することです。たとえば、『オレンジページ』(2023年4月2日号)の特集「こねない&発酵いらずで気楽に♪ ほぼ40分で! 本格ふわもちパン」のレシピを考案しましたが、「ふわもち」っていう感覚は人によって違うので、担当者さんが考えている「ふわもち」のパンってどんなパン?というのを、実際に試作品を食べてもらいながらイメージの擦り合わせをしました。
これは、メディアの仕事でもメーカーの仕事でも、大きくいえば変わりません。その会社がというより、依頼元の担当者さんが喜んでくれるものを考えるということが基本ですね。同じ雑誌でも担当編集者さんによって考え方が違うこともあるので、まず雑誌のターゲット全体を把握して、次は担当編集者さんが考えている料理の仕上がりのイメージを探って。メーカーならその商品がどういう層に向けて作られたのかを把握して、次に担当者さんのイメージする仕上がりを探って。
そこにプラスして、そのかたがどういうテイストのものが好きなのか、ふだんどういう方法で料理をしているかなどをヒアリングします。その担当者のかたがやってこなかった方法で、私が新しいアイディアを提案したら喜んでくれるだろうな、と思うので、あまりに突飛ではないんだけど、ちょっと目新しさが感じられるようなレシピを提案することに気をつけています。
いちばん重要で大変なのが「レシピ案考案」のフェーズ
仕事の流れとしては基本的に、仕事の依頼 ⇒ 担当者さんとの打ち合わせ ⇒ 試作[1] ⇒ レシピ案考案&提出 ⇒ 担当者さんからのフィードバック ⇒ 試作[2] ⇒ レシピ案調整&再提出 ⇒ 全メニュー試作[3] ⇒ 打ち合わせ ⇒ 撮影 ⇒ 撮影後に確定したレシピ提出 ⇒ 記事内容確認 ⇒ 雑誌発売・記事公開、になります。
依頼された料理の内容によっては、試作[1]を省いてレシピを考えて提出することも。逆に、いままでまったくやったことがない料理の場合は、的確な提案ができないので、打ち合わせの前に必ず試作します。レシピが決まったあとに、やっぱりできませんでしたとなると、一からやり直しになってしまうので、そうならないための試作をするかどうかは毎回ジャッジしています。
レシピ案の考案は、10品のレシピに対して12品提案すればいいこともあれば、20品提案しなきゃいけないこともあり、ケースバイケースですね。そして、ここがいちばんの肝だと考えている部分。なぜなら、ここが私の作品の部分であり、ここの段階で担当者さんの頭の中をのぞけているかどうかもわかるからです。ここが最も大変だし、いちばん時間をかけていますね。
その後、担当者さんからのフィードバックを受けて、メニューを調整したり、必要があれば試作をして、レシピ案調整&再提出。撮影までに全メニューを試作して〈仮レシピ〉を作成します。撮影前にコンテ(※)を確認する打ち合わせをして、撮影の段取りを決めます。撮影後に本レシピの提出をしますが、これは使う調味料の量を調整したり、調理時間を調整した〈最終レシピ〉になります。
(※コンテ……手書きの構成内容。ラフといわれることも)
レシピでいちばんこだわっているのは高い〈再現性〉
レシピを読んで作る人が失敗しないことがマスト
クリエイター
料理家、J.S.A.認定ワインソムリエ。生活情報誌編集部の料理試作スタッフ、料理家のアシスタントを経て、2012年独立。書籍、雑誌、広告を中心に活躍。日常的なおかずから、おつまみ、パン、スイーツと幅広く提案し、効率的で再現性の高いレシピが人気。著書に『オーブンなしで焼ける フライパンちぎりパン』(小社)、『作りおきスープの素』(文芸春秋社)など。
編集・ライター。インテリア誌や生活情報誌の編集職を経て、40歳を過ぎてからフリーランスに。家事、収納、マネー、リノベーション、インテリア、料理など携わるジャンルは多岐に渡る。投げられた球はどんな変化球でもとりあえず打ち返すタイプ。