Articles
岩木みさきさんの“みそ探訪家”という選択

岩木みさきさんの“みそ探訪家”という選択

岩木 みさき, 矢本 祥子

みそに関するあらゆる情報を得られるサイト「みそ探訪記」を運営する、料理家・岩木みさきさん。フードコンサルタントとして、レシピ考案やセミナー講演などを行う傍ら、メディアへの出演、料理教室主宰などマルチに活躍中です。さらには、各地のみそ蔵を訪ねる“みそ探訪家”という新たな立ち位置を確立。これまでの道のりと、みそへの熱い想いを語っていただきました。

目次

  • “みそ探訪家”という唯一無二の存在になったわけ
  • 夢を叶えるために「目標から逆算して動く」
  • みそに助けられた私はみそへ恩返ししたい

“みそ探訪家”という唯一無二の存在になったわけ

みそを探求するうちにその魅力にハマっていく

“みそ探訪家”という肩書は、岩木みさきさん独自のもの。料理業界ではあまり深掘りされていなかったみそに着目し、全国のみそ蔵を訪ね歩きながら、みそに関する知見を増やし、探求していった岩木みさきさんにぴったりの肩書です。

穏やかな笑顔で、みそについて教えてくださる岩木みさきさん
穏やかな笑顔で、みそについて教えてくださる岩木みさきさん

「そもそもは、10代のころ、肌荒れや摂食障害に悩んでいる状態をなんとかしたくて、食や栄養に興味を持ったことが、料理家を目指すきっかけでした。そこから全国のみそ蔵を訪ね歩き、さまざまなみそやみそに関わる人々と出会い、日々の食事にみそを摂り入れるようになって、自分自身、肌の調子や体調がどんどんよくなっていったんです」

自分の身体がいちばんの実験台だという岩木みさきさん。1回や2回みそを食べたからといってすぐに変化は現れないけれど、続けることで身体が変わっていくのがわかるそう。数日食べないだけでも、「ちょっと体調がすぐれないな」とすぐに感じられるといいます。

「冷えが改善されたり、代謝がよくなったりと体調的にもいいことがたくさんありますが、気持ちの面でも、みそを食べることでほっと一息ついて、リラックスできる。そんな効果もあると思います」

みそに底知れない力を感じた岩木みさきさんは、その魅力を多くの人に伝え、みそが持つ可能性を広げていくお手伝いをしたいと考えたそう。“みそ探訪家”として国内外に情報を発信し、みそに関するさまざまな活動を積極的に行っています。

完熟した南高梅で仕込んだ梅みそ
岩木さんの「梅仕事」も、もちろんみそとともに。完熟した南高梅で梅みそを仕込みます
みそに浸かった梅
1週間ほど常温で寝かせて完成。作り方は『みそ探訪記』で公開中

「みそ探訪記」はこうして誕生した

高校生のころに描いた「料理家になる」という夢を叶え、料理教室を主宰し、メディアへの出演、本の出版など、目指していたことをひと通り実現させた岩木みさきさんは「これから私はどうしよう……」と、ちょっとした燃え尽き症候群のようになりました。25歳ころのことです。

そのころ、仕事や会合で出会った起業家のかたがたから「すき間を見つけなさい」とアドバイスをいただき、「料理家にとって、すき間ってなんだろう?」「そもそも私は何がしたくて、料理家をしているのだろう?」と根本的なことをいろいろと考えたという岩木みさきさん。

「これからも料理家として仕事を続けるうえで、何かに特化していくにしても、なるべく仕事の幅が狭まらないようにしたいと考えました。そして、祖母が毎年作っていたみそのことを思い出し、日々、料理に使う身近な調味料のことをもっと知りたいと思ったんですね。和食や洋食、中華とジャンルを選ばず、どんな食材にも合うみそは、たくさんの可能性を秘めているのではないかと。みそを専門にしている料理家さんが、ほとんどいなかったことも決め手になりました」

徐々にみそに魅せられていったという岩木みさきさん

こうして、まずはみそのことを勉強したいと、岩木みさきさんは全国の“みそ蔵探訪”を開始します。

「みそは発送できるし、わざわざ遠くまで来なくても……」とみそ蔵のかたから言われることもあったそうですが、岩木みさきさんには「行けば必ず得るものがある」という確信がありました。特に、減りつつある木桶でみそを作っている蔵元を中心に、現地まで出向いて直接話を聞き、自分の目で見て体感することを、当初から大切にしていました。

いろんな場所に足を運び、いろんな人に会って、世界がどんどん広がっていくのがとにかく楽しくて、岩木みさきさんは、どんどんみその世界にハマっていったそう。

そして、探訪を始めてから1年あまり経ち、自分が得た知識をどこで、どのように伝えようかと考えて作ったのが、みそに関するポータルサイト『みそ探訪記』です。

2017年から更新し続けている『実践料理研究家 いわきみさきのみそ探訪記』 トップページ
2017年から更新し続けている実践料理研究家 岩木みさきのみそ探訪記』 トップページ

この「みそ探訪記」を立ち上げたのは2017年のこと。起業塾で出会ったかたにアドバイスをもらいながら、基本的には岩木みさきさんが一人でコツコツ作り上げていきました。

「みそって何?使い方は?など、当初自分が知りたかったことを掲載して、みそが好きな人が、ここに来れば欲しい情報が得られるサイトにしたいと思って作り始めました。どうしたらみその魅力が伝わるかな?役に立てるかな?と考えながら、 少しずつコンテンツを増やし、より読みやすくなるようどんどんブラッシュアップしていったんです」

最初のころは、1本記事を書くのに1週間くらいかかっていたという岩木みさきさん。何をするのにも、ものすごい労力がかかっていたそうです。

「今でこそライターとして執筆もしますが、当時は記事を書いたこともないので、知り合いのライターさんにリライトしてもらって、やっとアップしていました。動画も、お世話になっているカメラマンさんに撮っていただくのですが、台本を自分で作り、撮影も1日がかり。最初は見様見まねで始めて、100本ノックじゃないですけど数をこなすことで、徐々に力をつけていった感じです(笑)」

私の仕事はみそを介して生産者と消費者をつなぐこと

岩木みさきさんは、“みそ探訪家”を標榜することで、自分の立ち位置が明確になったといいます。

「“料理家”といっても、私の場合、フードコーディネータースクールにも通っていません。広告業界の裏方から始まった、いわば“現場叩きあげ”の経歴。これまでいろいろ活動してきて、自分のお役目は、“伝えること”と“人と人をつなぐこと”だなと感じています。そのためのツールが料理であり、みそだったということなんだと思います」

岩木さんを魅了する様々な種類のみそ
岩木さんを魅了するみそ。さまざまな種類があり、興味が尽きません

「『このみそで作ると料理もおいしくできますよ』と単純にレシピを伝えるだけでなく、たとえばAさんという消費者に対して、『Bさんという生産者がいて、こんな場所で、こんな思いで、こんなに手間ひまをかけてみそを作っているんです』と、作り手の人となりや蔵元の歴史、背景まで伝えると、Aさんにとって、みそのおいしさも何倍にも膨らむし、何より楽しいし、それをまた、誰かに伝えたくなる。世界が広がると思うんです。

反対に、生産者のBさんに『Aさんというかたがいてね、Bさんのみそを使うようになったら、家族が健康になって喜んでくれて、毎日、料理を頑張っているんですよ』と伝えたら、Bさんのモチベーションもすごく上がると思うんですね。私が、生産者と消費者の橋渡しをすることで、みんながハッピーになれたらいいなと」

みその魅力を多くの人に伝えるという仕事はもちろん、「この人とこの人が出会ったら、何か面白いことが起こるかもしれない」「あの人なら、この人の悩みを解決できるかもしれない」そんなふうに、ご縁をつなぐことにも尽力してきた岩木みさきさん。

「自分や、自分の作ったレシピを介して人と人がつながったり、その人たちがまた、誰かの役に立ったり。関わる人たちの“うれしい”が増えると、人生が豊かになりますよね」とうれしそうに語ります。

みそ蔵での岩木みさきさん
全国津々浦々、計85蔵147回(2023年11月現在)みそ蔵を探訪

これまで岩木みさきさんがみそ蔵を訪ね歩いたなかでも、特に印象に残っているのが、みそ探訪を始めて間もないころ出会った、白みその蔵元さんの話です。大手の白みそメーカーさんから「あそこなら木桶で白味噌を作っているはず」と教わって訪ね、その後交流を持つようになったそう。

そして、数年ぶりに、ある新聞社の取材に同行し、その蔵元を再訪した岩木みさきさん。そこで蔵元のかたから、「木桶での白みそ作りは、昔はやっていたけれど、手間がかかるからここ10年くらいやめていた。岩木さんが訪ねてきて、『木桶のみそを応援したい』と熱い思いを語ってくれたのがきっかけで、復活させたんですよ」と言われてびっくりします。

「今では、木桶で白みそを作っているのはその蔵元さんだけで、それが売りにもなっています。私も再訪するまで知らなかったのですが、自分が突撃取材をしたことで、その蔵ならではの商品が生まれて少しでもお役に立てたのかなと思うと、うれしかったですね」

もう一つ、岩木みさきさんにとって忘れられない蔵があります。その蔵の主人はまさに頑固一徹、最初はまったく口も聞いてくれなかったのだとか。何度か足を運ぶうちにだんだん打ち解けていき、あるとき、テレビの取材で、どうしてもその蔵のことを紹介したいと伝えたら、最初は断られたそうですが、最終的にはOKしてくれたそうです。

「6年間、家族以外は誰も入れなかったという蔵の中に入れてもらったとき、その場に流れるあまりにも厳かで神聖な空気感に圧倒され、思わず泣いてしまったんです。『特別にいいよ』って言ってもらえる人間関係を積み上げられたことがうれしかったですし、これからも、そういう大切な場にいさせてもらえる自分であり続けたいと強く思いました」

実直にみそやみそに携わる人々と向き合い、そのとき自分ができることに精いっぱい、力を傾け続けてきた岩木みさきさんだからこそ、ご縁がつながり、仕事の幅が広がっていったのでしょう。今では、メディアでの露出や本の出版だけでなく、飲食店に携わったり、クライアントである大手企業のためにレシピを考案したり、講演を行ったり、行政から依頼されて海外でもみその普及に尽力したり、さまざまな顔を持つ存在です。

海外のスーパーでも“みそリサーチ”を欠かしません。リサーチしながら提案の仕方を模索

“レシピを作るだけの料理家”という枠には収まらない活動をしてきた岩木みさきさんですが、過去には、「自分は何者なんだろう?」と悩むこともあったといいます。

「今は、みそを通じて人々の喜びを増やすことが、自分の使命だと芯が通ってきました。生産者や消費者だけでなく、料理教室の生徒さんや大企業のクライアントさん、TVなどのメディア関連、雑誌の編集者さんなど関わる人すべてに対して、相手が求めているものを、みそや食を通して叶える。それが、“みそ探訪家”としての私の仕事だと思っています」

夢を叶えるために「目標から逆算して動く」

真摯に生きていれば、ある日ご褒美がやってくる

クリエイター

「生産と消費を紡ぎ、食を伝える」をテーマに、大手健康食品会社などで実践しやすい健康レシピの考案や撮影を担当。料理教室・イベントなどの講師業に加え、取材・執筆や行政案件への対応、ラジオやTV、CM等のメディア出演も多数。得意とする専門分野は、日本の伝統調味料である「みそ」。

ぴあ、TBSを経て、フリーの編集・ライターに。旅や衣食住、エンタメ関連などの媒体で、企画や取材、編集、執筆を手がける。ブックライターとしてビジネス書の企画やライティングも。2023年現在、パーキンソン病を患う両親の介護経験を本にする準備中。モットーは「人生、最後まで冒険を!」

SNSでシェアする

いま人気のテーマ