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だれにでも伝わるレシピの書き方

だれにでも伝わるレシピの書き方

高丸 昌子

この記事を読んでくださっているみなさんのなかには、WEBやSNSでオリジナルのレシピを紹介したり、料理教室で教えるレシピを書いて配ったりする機会があるかたも多いのでは。料理の作り方を文章で伝えるのは、意外とむずかしいもの。雑誌などに掲載するレシピは、どのように書かれているのでしょうか。
料理雑誌の編集に携わって15年以上、現在はフリーランスで『オレンジページ』や『オレンジページnet』でも活躍するライターが、だれにでも伝わるレシピのポイントをお伝えします。

目次

  • 雑誌のレシピはわかりやすくリライトされている
  • レシピのリライト、実際にやってみるとこんな感じ
  • より簡単に見せるための表現テクニック
  • 試作をしてみるとわかることも多い

雑誌のレシピはわかりやすくリライトされている

料理本や雑誌に掲載されているレシピは、もちろん料理家が考案したものですが、料理家が書いた原稿がそのまま掲載されているわけではありません。ライターや編集者、校閲者など、多くの人の手が入り、整えられたものなのです。「だれにでも伝わるレシピ」にするためには、どのような観点で原稿整理・リライトしているのか、ご紹介します。

専門用語は使わず、だれにでもわかる表現に

調理中の読者が迷わず作れるよう、わかりやすい表現にすることがもっとも大切です。
「何を、どうするのか」主語を明確にするなど、日本語の表現として正しいことは言わずもがな。読者の料理スキルはさまざまなので、料理初心者にもわかるよう、専門的な料理用語はできる限り平易な言葉に言い換えます

たとえば、「いちょう切り」「拍子木切り」「さいの目切り」と言われても、料理初心者にはどのようにして切ればいいのか、単語だけではわかりません。そこで『オレンジページ』の場合は、以下のように表現します(表現方法の基準は、出版社や媒体により異なります)。

【例】

  • いちょう切り ⇒ (円筒形または球状のものを)縦4等分に切ってから、横に薄切りにする(または幅〇cmに切る)
  • 拍子木切り ⇒ 〇cm角の棒状に切る
  • さいの目切り ⇒ 〇cm角に切る

材料の分量は、どんな単位だと使いやすいか

野菜の分量が「〇g」と重量で表記されていると、どのくらい必要なのか、量らなければわかりません。お菓子やパン作りの場合は正確な計量が必須ですが、それ以外のふだんのおかず作りでわざわざはかりを出して量るのは手間。個体差の少ない野菜などは、なるべく個数・本数を表記すると、買い物の際にも必要な量を目分量で判断できます。

ただし、個体差が大きいものや、電子レンジ調理など重量が加熱時間に影響する場合は「〇個(約〇g)」のように重量も併記します。

ねぎ、にんにく、しょうがなど香味野菜のみじん切りやすりおろしの分量は、「大さじ〇」「小さじ〇」と表記したほうが、味が決まりやすく、チューブ商品や刻みねぎを使う場合は現実的。ですが、誰もがこうした商品を使っているわけではないので、野菜の場合どのくらいの量を刻んだり、すりおろしたりすればいいのかイメージできるよう、「〇本分(〇さじ〇)」「〇かけ分(〇さじ〇)」と併記すると親切です。

作業をイメージしながら、やりやすい手順で

材料を切る工程は、野菜の切り方から説明するのが基本。肉や魚を切ったあとに野菜を切るとなると、まな板と包丁を念入りに洗うという手間がかかるからです。最後の仕上げで青み(パセリのみじん切りなど)を散らす場合も、そのタイミングで初めて「みじん切りにしたパセリを散らす」と出てくると、また包丁とまな板を出して切る作業に戻らなければなりません。できるだけ切る作業はまとめて、最初の工程で説明しておいたほうがスムーズです。

オーブン料理のレシピの場合は、最後の最後に「〇度に予熱したオーブンで〇分焼く」と出てくると、そこから予熱時間がかかってしまいます。予熱時間をある程度予測して、下準備の過程で「オーブンを〇度に予熱しておく」という記載をはさむと、時間のロスがありません。

どこの家のキッチンにもある道具を使う

ミキサーやフードプロセッサー、肉たたき……料理が好きな人のキッチンには当たり前のようにあるものでも、持っていない人はたくさんいます。持っているなら使ったほうが便利で簡単だとしても、代用できるものややり方がある場合は併記しておくと、「道具がないから…」と作ることを諦めてしまう人を救済できます。

【例】

  • 肉は肉たたきでたたく。 ⇒ 肉は肉たたきかコップの底などでたたく。

加熱時間、火加減、揚げ油の量や温度は必ず表記

加熱時間、火加減の記載は必須。また、いったん火を止めてから再び火にかける場合や、ふたをしたあと・はずしたあとでは火加減を変えるケースがあるため、元レシピに記載がなくても念のため確認するようにしています。

揚げ油については、量(高さ〇cm)と温度(低温・中温・高温)を記載します。揚げもの用の温度計がなくても目安がわかるよう、『オレンジページ』では菜箸を入れた場合の油の状態を注釈にして記載しています。

  • 低温(160~165℃):乾いた菜箸の先を鍋底に当てると、細かい泡がゆっくりと揺れながら出る程度
  • 中温(170~180℃):乾いた菜箸の先を鍋底に当てると、細かい泡がシュワシュワッとまっすぐ出る程度
  • 高温(185~190℃):乾いた菜箸の先を鍋底に当てたとたん、細かい泡がシュッシュッと一気に出る程度

加熱時間で表せないときの目安表現

次の作業に移るとき、どうなったら進んでいいのか、加熱時間の目安表記があると迷いません。ですが、家庭のコンロの種類や火力、鍋の大きさ・材質により、火通りに差が出ることがあるため、以下のように見た目や状態の変化で表現することがあります。

よく見かける表現に「きつね色になったら」というものがありますが、『オレンジページ』ではNG(表現方法の基準は、出版社や媒体により異なります)。「きつね色」といっても、人によってイメージする色には差があるためです。

【例】

  • 炒めもの:全体的に焼き色がついたら、こんがりと色づいたら、全体に油が回ったら、しんなりとしたら、香りが立ったら……など
  • 揚げもの:からりとしたら、こんがりと色づいたら……など
  • 煮もの:煮汁がなくなったら、煮汁がうっすらと残るぐらいになったら……など

ワット数や単位は揃えて表記する

電子レンジ調理の場合、加熱時間、ワット数も必ず記載します。同じ本の中で、600Wで作るレシピと500Wで作るレシピが混在しないよう、『オレンジページ』の場合は600Wを基準に統一しています。

調味料は計量スプーン(大さじ1=15ml・小さじ1=5ml)、液体は計量カップ(1カップ=200ml)、米は1合=180mlで単位を揃えます。

鍋やフライパンのサイズが違うと火の通り具合に差がでるものは、サイズの記載が必要です。たとえば、煮ものでは鍋が大きすぎると指定の煮汁の量では具材が浸らなかったり、炒めものではフライパンが小さすぎると火通りに時間がかかりシャキッとしなかったりと、仕上がりに影響してしまうためです。『オレンジページ』の場合、フライパンのサイズは直径26cmを基準にしています。

オレンジページの「料理の前に必ず確認」
『オレンジページ』に毎号必ず記載されている「料理の基準」

レシピのリライト、実際にやってみるとこんな感じ

以下のような元原稿がきたとします。さて、どんな点が気になりますか?

――――――――――――

【例題1/元原稿】
材料
米  2合
鶏肉(大)  1枚
あさり  〇g
ごぼう  1/〇本
パプリカ  〇個
たけのこ  〇g
アスパラ  〇本
サフラン  ふたつまみ
水  〇ml
コンソメ、塩  各小さじ〇
塩、こしょう、オリーブオイル  適宜

これはフライパンで作るパエリアのレシピの材料部分です。頭のなかでこんなことを考えながら、整理していきます。

▷材料は何人分?
▷米は1合=180ml。換算して併記する必要あり。
▷鶏肉は撮影ではもも肉を使っていたはず。(大)って何gぐらい?
▷あさりは殻つき? 作り方に「砂抜き」の作業から入れる余裕はある?
▷ごぼうは太さによって重量に差がある。フライパンで炊き込むのでg表記も入れたい。
▷パプリカは赤や黄があるけれど……撮影で赤を使っていた。
▷たけのこは水煮だった。ごぼうにそろえて個数表記も必要かも。
▷アスパラの正式表記は「グリーンアスパラガス」。写真は細めのものだった。
▷サフランのふたつまみって何g? 高価なものなので、目安を記載したほうがいいかも。
▷液体は『オレンジページ』のルールではカップ表記(1カップ=200ml)
▷コンソメは『オレンジページ』のルールでは「洋風スープの素(顆粒)」
▷塩、こしょう、オリーブオイルの量も入れたい
▷塩が2か所(鶏肉の下味つけと、煮汁)に出てくると分量がわかりにくい

以上をふまえて、リライトしたものがこちら!

クリエイター

出版社勤務(飲食業界専門誌、育児誌、料理誌、女性誌など)を経て、フリーランスの編集者・ライターに。食や生活まわりのテーマを中心に、雑誌・書籍・WEBなどで執筆。人物インタビュー、市井の人への取材も大好き。お茶する時空間をこよなく愛する。

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