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シェアキッチン「ハマダヤマラボ」は“おいしい”でつながる場所

シェアキッチン「ハマダヤマラボ」は“おいしい”でつながる場所

ハマダヤマラボ, 太田 順子

東京都杉並区浜田山にあるシェアキッチン「ハマダヤマラボ」。オーナーのAさんがお一人で運営しています。現在Aさんは会社員・シェアキッチン・育児奮闘中と、まさに3足のわらじ状態。さらに、ハマダヤマラボをオープンしたのは「お子さんが1歳のとき」と、お話を聞けば聞くほど興味が深まるばかり。そのバイタリティあふれる源をお伺いしました。

目次

  • 「人」と「地域」のかけ橋となるスペースに
  • 「ハマダヤマラボ」3つの柱
  • 「育休」が転機に
  • 〈3足のわらじ〉のちょうどいいバランス

「人」と「地域」のかけ橋となるスペースに

会社員として働きながら「ハマダヤマラボ」をオープン

京王井の頭線の浜田山駅。駅から3分ほど歩いた商店街の中に「ハマダヤマラボ」はあります。渋谷と吉祥寺のほぼ中間に位置する浜田山は、公園も多く、穏やかで落ち着いた雰囲気が特徴。都会へのアクセスのよさと自然の両方が楽しめるエリアです。

「ハマダヤマラボ」がオープンしたのは、2023年6月。

お菓子やパンを作って販売したい人に向けてキッチンを貸し出すだけでなく、「食」にまつわるワークショップも定期的に開催しています。「ハマダヤマラボ」のオーナーであるAさん自身も、ここを製造拠点にしてお菓子を販売。多才さに驚くと、「単にやりたいことが多すぎるのかもしれません」と笑うAさん。

玄関ドア
「ハマダヤマラボ」は浜田山駅前、商店街の古いビルの一角にある。既存の玄関ドアをあえて残したレトロな佇まい

菓子製造のシェアキッチンをベースとしつつ、「食」と「地域」にかかわっていきたい。「食を通じてみんながつながる場所にしたい」そんな思いを込めて立ち上げたのが、この「ハマダヤマラボ」です。

ハマダヤマラボ 公式サイト トップ画
「ハマダヤマラボ」の公式サイト
「ハマダヤマ」と地名をつけることで、覚えやすいメリットが。「ラボ」はワークショップなどを通して、実験や学びの場にしたいという思いから

「ハマダヤマラボ」の室内は、コンクリート打ちっぱなしのスケルトン状態から、Aさん夫婦で内装イメージを浜田山にある工務店CUD(@cud_hamadayama)に伝え、仕上げてもらったそう。

内装
やさしいベージュトーンの壁色も、Aさんが工務店と相談してセレクト

「ハマダヤマラボ」3つの柱

現在の活動や運営内容について伺うと、「ハマダヤマラボ」の〈3つの柱〉について教えてくれました。

【その1】 「菓子製造業許可のあるシェアキッチン」として作り手を応援

いちばんの特徴は、「菓子製造業許可のあるシェアキッチン」であるということ。あらためておさらいをすると、お菓子やパンを販売しようとするとき、家庭のキッチンで作ったものは販売することができません。安全面、衛生面の観点から、さまざまな基準をクリアした「菓子製造業許可」を得た施設で製造することが法律で定められています(製造時には食品衛生責任者も必要)。

菓子製造業許可つきシェアキッチンなら、設備投資の必要がなく、手作りのお菓子やパンを販売することが可能。販売目的だけでなく、お菓子作りの練習や教室として利用することもできます。

キッチン 調理器具
お菓子やパン作りに必要なオーブン、業務用ミキサー、調理器具もひと通りそろっている

「飲食店許可とは違い、菓子製造許可は製造場所以外で販売できるので、マルシェやイベントに出店したり、飲食店へ委託販売するためのご利用がほとんどです。最近はWEBショップでの販売も増えているので、『ハマダヤマラボ』のようなシェアキッチンの需要も高まっているのでは、と思います。私も、これまではほかのシェアキッチンを利用してお菓子を販売していました。同じように、自分のペースで小さく商いを始めたい人の手助けができたらと思い、月額制ではなくスポット(単発)利用OKにしています」

【その2】 「ハマダヤマラボ」の屋号でお菓子を販売

オーナーのAさん自身も「ハマダヤマラボ」を製造拠点にして、お菓子を販売しています。1人で製造・販売しているゆえ受注販売がメインですが、休日を利用して、都内のマルシェやイベントに参加することもあるそう。

「お菓子は世代を問わず、幸せにすることができるツール。普段の何気ない暮らしのなかに、ちょっとした幸せを添えられるようなお菓子が作れたら」とAさん。クッキーやマフィンなどの焼き菓子を中心に、素朴でかわいらしいお菓子が人気。ほどよい甘さとやさしい味わいが魅力です。

季節のクッキー缶 ギフト
自らを「クッキーモンスター」と呼ぶほど、クッキーは作るのも食べるのも大好き。季節のクッキー缶はギフト需要も高い
マフィン
店頭販売やマルシェで大人気のマフィン。写真もAさんご自身が撮影

夫婦そろってお酒好きなこともあり、おつまみ的なおやつも得意。

やみつきナッツ
甘じょっぱさと、スパイスのバランスが絶妙な「やみつきナッツ」。手にも歯にもベタベタくっつかない仕上がりがこだわり

2024年6月には、焼き菓子やパンが好きな人と作り手をつなぐ人気のマルシェ『森下・清澄白河 ベイカーズマルシェ』にも出店しました。

森下・清澄白河 ベイカーズマルシェ
全36店が集まった『森下・清澄白河 ベイカーズマルシェ
クッキー コーヒー
普段とは違うエリアでの販売だったため、「どきどきしました」とAさん

【その3】 「食」にまつわるワークショップの主催

ハマダヤマラボでは、「食」にまつわるワークショップを定期的に主催。この「ラボ」のワークショップを通じて、地域のコミュニティが広がっていきます。

「夫の地元が杉並区で、結婚を機にこの地で暮らすことに。自然豊かな土地柄はもちろん、街と人の温かさが魅力ですね。

ワークショップのなかでも好評なのが、『魚捌き練習会』です。「鮨川(すしかわ※)」の職人さんを講師として迎え、約10尾の魚をさばきます。お菓子販売は圧倒的に女性が多いのですが、『魚捌き練習会』は男性や年配のかたに多くご参加いただいています。

参加者のみなさんの顔は、真剣そのもの。終わったあとは『すごく楽しかった!』と口々に言っていただいて。さばいた魚は、その場でなめろうにしたり、煮つけにしたり。最後はみんなでお酒を飲みながら食べるという、主催者の私も楽しい会です(笑)」

出張鮨 鮨川……本格的な江戸前寿司を提供する出張専門の鮨屋

魚捌き練習会
『魚捌き練習会』はこれまでに4回開催

また、去年の夏は『自由研究ワークショップ』と銘打って、ゼリー菓子の材料である凝固剤(ゼラチン、寒天、アガーの3種)の違いを比べてみるという企画も。

「お菓子作りは使う材料や量を変えると、食感や仕上がりに大きく差が出ます。比較・検証するのが実験見たいですごく楽しいですよ。自分が子どものときにそういうことを教えてくれるところがあったら、理科や化学が嫌いにならなかったかもしれないなと(笑)」

敬老の日の向けて「似顔絵クッキー」のワークショップ開催したことも。子どもたちはおじいちゃん、おばあちゃん、家族の顔をクッキーに描き、自分たちでラッピングまで行います。お菓子を通して、家族への思いがつながる素敵なイベントです。

クッキー
子どもたちが作った実際のクッキー

このようなイベントを行うことを前提に、ハマダヤマラボ内のレイアウトにもこだわりが。一般的に、作業台は壁付けされていることが多いですが、みんなで囲んで作業できるよう、真ん中に配置しています。

中央に位置しているのが作業台。壁付けすると集中できるメリットもあるが、コミュニケーションがなかなか取りづらい

「育休」が人生の転機に

シェアキッチンを作ろうと決意するまで

クリエイター

京王井の頭線・浜田山駅近くにある、菓子製造業許可のあるシェアキッチン。オーナーのAさんが個人で経営し、自らも菓子製造・販売を行う。浜田山という土地に愛着を持ち、シェアキッチンとして作り手を応援するほか、食のワークショップを開催したり、「おいしいでつながる場所」を提供している。

フリーライター。『オズマガジン』編集部、『オレンジページ』『オレンジページインテリア』編集部など、情報誌やムック本の編集者として出版社に勤めた後、フリーランスに。現在は料理、生活まわりの記事を中心に執筆・編集を手がける。

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