料理人である母親の影響で、15歳で料理人の道へ進んだHirochi(ひろち)さん。料理長を経験後、飲食店で数多くのメニュー開発やレシピ考案を行ったのち、自らの思いを実現するため、料理系インフルエンサーへ転身。どんな人でも簡単にプロの味を再現できるレシピで、料理の楽しさを知ってほしい、といいます。きっかけは、奥様が「料理が苦手」ということ。転身時のお話や、レシピ本出版、動画マーケティングなどのお話を伺いました。
目次
- シェフからインフルエンサーへの転身
- 「お店の味」を家で簡単に作れるレシピを考える
- プラットフォームに合わせた世界観を
- 試行錯誤しながら自身のスタイルを見つける
- レシピ本出版と動画マーケティング
シェフからインフルエンサーへの転身
「料理が好き」という気持ちにまっすぐに
「元シェフが教える」「絶対に失敗しない」「世界一めんどくさくない」……
Hirochi(ひろち)さんのInstagram(@hirochi_kitchen)には、思わずタップして先を見たくなる魅力的な言葉が並びます。「元シェフ」という言葉どおり、ホテルやレストランでシェフとして働いてきたHirochiさんは、コロナ禍をきっかけにインフルエンサーとしての道を歩み始めました。
「料理することが大好きなので、シェフの仕事が嫌になったわけではありません。体力的にきついと感じたことはありますが、それまで知らなかった料理の技術や手法を学べたのは、とても刺激的でした。
それに、さまざまな現場でいろいろなスタイルの経験ができたことも、貴重なことだったと思います。新しい料理を生み出す苦しさもありましたが、お客様に喜んでいただけることもうれしくて、毎日充実しましたね」
コロナ禍で店が閉まることになり、今後を考えていた時に頭に浮かんだのが、自身のレシピをもっと多くの人に知ってもらいたいという思いでした。
「妻のために考えたレシピ」が料理をする人の手助けに
そもそもシェフとして働きながら、ときどきInstagramにレシピを掲載していたHirochiさん。そのきっかけは?
「妻でした。結婚していっしょにキッチンに立つようになって、彼女が料理が苦手だと知って。自分がよく作る料理のレシピを書いて渡したものの、それでもうまくできなかったんです」
Hirochiさんが最初に渡したレシピは、シェフとして身につけてきたプロの技術を盛り込んだもの。それではダメだと気づき、工程を減らして簡単な調理法でできるレシピに変更するようにしました。
「自分のなかにある知識で何かできることはないかな、と考えて。料理が苦手でも、簡単にできておいしく仕上がったら、料理することが楽しく感じられるんじゃないかなと思ったんです。予想どおりに妻はちゃんと作れるようになって、さらには『このレシピを求めている人が世の中にはたくさんいるはずだ』と教えてくれました」
記録することから、伝えることへ
当時は、まだシェフとして働いていたので、動画までは手がまわりません。それまで記録として、料理の写真を掲載していたInstagramをそのまま活用することにし、写真とレシピを投稿するようにしました。すると「作ってみました、おいしかったです」といった反応がくるようになり、「もっとたくさんの人に料理の楽しさを伝えたい」という想いが強くなっていったと話します。
「ただ記録するためじゃなく、誰かのために発信することの楽しさを知ったんです。妻のように困っている人たち、毎日料理を作り続けなければならない人たちに向けて、日々のルーティンに少しでも喜びや楽しさを加えられたら、という思いでした」
最初はシェフ業と並行しながら「おうちでラクするレシピ」を考えては投稿する、という日が続いていったのです。
お店の味を家で簡単に作れるレシピを考える
幼いころに感じた「おいしい」と言ってもらえる喜び
Hirochiさんが料理の楽しさに目覚めたのは、幼稚園生のころ。料理人であるお母様の手伝いをするうちに、料理が楽しくなっていったと振り返ります。初めて作ったオムライスを食べたお母様が「おいしい」と喜んでくれたことがうれしくて、さらに料理にのめり込み、さらには友人を呼んで自身の料理を振る舞うようにまでなったそう。
「自分が作ったものを食べた人が、喜んでくれる。その姿を見るのがうれしくて、料理することが大好きになって今につながっているんだと思います」
誰かを喜ばせたいという、その気持ちがシェフにつながり、Instagramを通じて外に向いたのも自然な流れなのかもしれません。シェフとして働きながら、簡単にできるレシピを投稿するうちにコロナ禍が始まり、冒頭に書いたようにお店を閉めることに。
「みなさんが外食しにくくなった時期でしたよね。そこで、お店の味を家でも食べられるようにと、よりレシピを投稿することに注力するようになったんです。思いきってインフルエンサーに舵を切りました」
シェフをやめて、動画製作をスタート
HirochiさんのInstagramのコンセプトは「お店の料理をお家でも簡単に」というもの。レストランや居酒屋で口にするようなメニューを、自宅でも手軽に作れるレシピを次々に発信していきました。
今まで以上に家で料理をしなければならない。いつもの味が続いて飽きてしまう。外食したいのにできない。そんな思いを抱えている人にとって、Hirochiさんのレシピは救いになったに違いありません。
「シェフ時代は忙しくて写真しか投稿できていませんでしたが、舵を切ってからは動画にも挑戦して積極的にいろいろやるようにしました。
動画の撮影方法や編集の仕方は、YouTubeなどを見ながら独学で。料理をテーマにした映画をいろいろと参考にしながら、気になるシーンは繰り返し見て、どうやって撮っているのか深掘りしていきました。ほかにも、本を読んだり、ほかのクリエーターさんの作品を見たりして学ぶようにして」
そうして撮影した動画は、Instagramだけでなく、TikTok(@hirochi.kitchen)にも投稿するようにしていきました。
誰もが手軽にできて、お店の味になるレシピを
レシピを考えるにあたって気をつけているのは、食材選びだと話します。例えば、『エビパリ』という料理。本来は、エビを「カダイフ」で巻いて揚げていきます。「カダイフ」は、小麦粉やとうもろこしの粉でできた、細麺状の生地で、主にトルコなどの中東地域でよく使われているもの。Hirochi さんはそれを春巻きの皮で代用し、食感を近づけるようにしました。
「レストランでは特別な食材を使う料理でも、投稿するレシピは、一般的なスーパーで手に入るもので考えるようにしています」
ほかにも「包みハンバーグ」は、焼き目をつけたハンバーグをアルミホイルで包んで、オーブンで焼くというもの。あらかじめ表面を焼くことで肉汁を閉じ込めることができます。
蒸気でふんわりと膨らんだアルミホイルを切るという工程も楽しく、ハンバーグを切った瞬間に肉汁があふれ出すさまが見事で、まさにレストランで見る料理そのもの。アルミホイルで包んで焼くという手法が「誰にでもできて失敗しにくい」というのもポイントです。
また、“切り方を変えるだけで、見た目や食感が変わる”ということを伝えるレシピも。「ズッキーニの炒め物」は、ズッキーニを縦に長く切ってから炒めています。
「新しい切り方を提案したくて考えたレシピです。試作や撮影のために1ケース分のズッキーニを使いました。大変でしたね……。 試作を何度も繰り返して、やっといい切り方を見つけたと思っても、撮影となると、アングルによってわかりにくくなったりするとやり直しなので、ひたすらズッキーニを切り続けました(笑)」
そうして苦労して切り終えたズッキーニは、豚肉と合わせてオイスターソースや豆板醤で味つけ。目新しいズッキーニの姿と、ご飯に合う一品ということもあって、たくさんの人の目に触れることになりました。
「身近な食材や道具を使って、新しい使い方や見せ方を研究するのが楽しくて。手軽でありながら、驚きのある料理を提供したいんです」
プラットフォームに合わせた世界観を
クリエイター
日本生まれ韓国育ち。料理人である母親の影響から、幼いころから料理が好きになり、15歳で料理人の道へ。料理長を経験し、飲食店で数多くのメニュー開発やレシピの考案等を行う。 どんな人でも簡単にできるプロの味を伝えるレシピを発信。ショート動画に特化した動画マーケティングの仕事も手掛けている。
フリーライター。出版社オレンジページに入社し、生活情報誌『オレンジページ』『オレンジページ インテリア』の編集を担当したのち、フリーランスに。暮らしやインテリア、カルチャーを中心に、雑誌や書籍、WEBで執筆・編集を行う。