
『Tea Era キッチンカー』は、2021年9月にスタートした日本茶専門のキッチンカー。黒田健斗さんが、オーストラリアでのワーキングホリデーをきっかけに「日本茶の魅力を広めたい」と思い立ち、京都の茶園で学びながら本格的に事業を開始しました。DIYで軽トラックを改造し、抹茶やほうじ茶をはじめとするこだわりのドリンクを提供。試行錯誤の末に、今では多くのイベントへの出店依頼がくるように。オープンから現在まで、挑戦の日々を伺いました。
目次
- 知識&経験ゼロから飛び込んだ日本茶の世界
- 実践を通じて日本茶について学んだ半年間
- 海外に日本茶を輸出するため、株式会社を設立
- 店舗の代わりにキッチンカーという選択肢
- 出店場所は自分たちで探して直談判
- 紆余曲折を経て、現在はキッチンカー会社員に
知識&経験ゼロから飛び込んだ日本茶の世界
コロナ禍の2021年9月に開業した「Tea Era(ティー エラ) キッチンカー」。東京、神奈川、千葉を中心に、京都の農園から直接仕入れた抹茶やほうじ茶、煎茶、玉露を取り揃え、作りたてのドリンクを提供する日本茶専門のキッチンカーです。どんなきっかけがあって、日本茶に関わるようになったのでしょうか。
オーストラリアでの出会いが大きな契機に
「21歳から約2年間、オーストラリアのケアンズにワーキングホリデーに行っていたんです。そこで、日本の食文化に興味のある外国のかたが多いことに気がつきました。それでケアンズで出会った2人の日本人の友人と、『日本に帰ったら、日本の食文化を海外に広めるようなことがしたいね』と話していて、思いついたのが日本茶だったんです。
日本茶を選んだ理由は、日本という単語が入っていることと、僕たちはシェフでもなんでもなかったので、お茶ならやっていけるかなと(笑)」
と話すのは、「Tea Era キッチンカー」を運営する黒田健斗さん。
とはいえ、それまで日本茶について学んだこともなければ、日本茶にまつわる仕事をしたこともなかった黒田さんたち。知り合いもコネもないなか、日本茶の仕入れ先を開拓するために行ったのは、お茶農園にとにかくメールを送ることでした。
「当初は、キッチンカーではなく、海外に向けてネット販売しようと考えていたため、『海外に向けて日本茶を販売したいんですけど、いっしょに何か考えてくれませんか?』という内容のメールを、全国のお茶農園に何百件と送りました。
そのなかで、いちばん早く返信をくれたのが、京都の和束町にある『上嶋爽禄園(うえじま そうろくえん)』さんだったんです」
実践を通じて日本茶について学んだ半年間
すぐに『上嶋爽禄園』に赴き、直接話をして、お茶を卸してもらうことになった黒田さんたち。
「『素人なんですけど日本茶の仕事を始めようと思っていて、お茶のいれ方から種類まで学びたいです』と正直に伝えたら、ていねいに教えてくださって。『上嶋爽禄園』で日本茶についての知識をいちから学びました」

『上嶋爽禄園』で学んだのは、お茶のいれ方や種類などの座学だけではなく、茶畑仕事などの実践を通した日本茶ができるまでの大事な工程でした。
収穫の工程のはじまりは、朝5時や6時から行う葉の摘み採り作業。最初に摘み取る葉は、新茶とも呼ばれ、一年間で最も品質がよいお茶とされている〈一番茶〉。一番茶を摘み終えても、収穫期はまだ終わりではありません。
一番茶を摘んだあとに伸びてくる芽〈二番茶〉を収穫するために、収穫までのあいだは肥料をあげる期間。特殊な機械を使って肥料をまき、土を撹拌させる作業が続きます。

「トラックが入っていけない茶畑では人力で肥料を運ぶんですが、1袋だいたい20kgあるので腕がパンパンになりました。約半年ほど『上嶋爽禄園』で過ごさせていただきましたが、おいしいお茶ができるまでに膨大な時間や手間ひまがかかることを知り、ますますお茶に対する気持ちが強くなりましたね」


海外に日本茶を輸出するため、株式会社を設立
オーストラリアで出会った友人2人といっしょに、日本茶を海外に広める仕事をスタートした黒田さん。個人事業主としてではなく、株式会社を設立することにしました。法人化した理由は、日本茶を卸してもらったり、海外に輸出したりするには、個人事業主より法人のほうが社会的な信用を得られると考えたから。
会社を設立するには、登記申請書類を作成して法務局に申請したり、法人設立届出書などの必要書類を、会社の所在地を管轄する税務署に提出したりする必要があります。
それらに必要な書類を作成するにはかなりの知識が不可欠なため、黒田さんたちは税理士に依頼することに。
「じつは税理士さんは『ココナラ』で探しました。会社を立ち上げたいんですけど手助けしてくれませんか?とお声がけして、金額も相談しながら決めましたね。法人化するのにかかった費用は、全部で20万円くらいでした」
→ココナラ……個人のスキルを気軽に売り買いできる日本最大級のスキルマーケット
株式会社を設立後は、まずは日本茶のティーバックをネット販売する事業を始めました。同時に、オーストラリアでのワーキングホリデー中に出会ったアジア圏の友人にお願いして、その友人の知り合いのお店に商品を置いてもらったり、ホテルのアメニティとして置いてもらったりもしたそう。
「国内でも知り合いの人脈を使って、いろいろなところに商品を置いてもらっていました。自分たちで営業するのが基本で、HPも〈WordPress(ワードプレス ※)〉を利用して、自分たちで作成しました」
※WordPress……ブログから高機能なサイトまで作ることができるオープンソースのソフトウェア
店舗の代わりにキッチンカーという選択肢
ネット販売を続けるうちに、自分たちがいれたお茶もドリンクとして提供したいと考えるようになったそう。とはいえ、店舗を借りるとなると初期費用がかかります。そこで思いついたのが、キッチンカーでした。
「僕が古い軽トラックを持っていたので、それを活用してキッチンカーでも作るか!っていうのが発端です」
軽トラックの荷台部分に設置するキッチン部分は、インターネットでいろいろな業者を調べて、自ら発注。キッチン内の内装や外装はDIYで仕上げることで、コストカットを図りました。
「まだキッチンカーが今ほどメジャーな存在ではないころだったので、キッチン部分だけの製作で60万円ほどの出費で済みましたが、今はかなり値上がりしていると聞いています。車体はもともと白でしたが、YouTubeやインターネットなどで調べて、自分たちでベージュに塗装。キッチン部分も最初は白でしたが、汚れが目立たないグレーに塗り替えました」


メニューもフードもオリジナルにこだわる
クリエイター
日本茶専門のキッチンカー。店主の黒田健斗さんが海外でのワーキングホリデーをきっかけに「日本茶の魅力を広めたい」と思い立ち、京都の茶園で学んだのち、2021年9月に事業を開始。抹茶やほうじ茶をはじめとするこだわりのドリンクを提供。神奈川県、東京都、千葉県を中心に活動中。
編集・ライター。インテリア誌や生活情報誌の編集職を経て、40歳を過ぎてからフリーランスに。家事、収納、マネー、リノベーション、インテリア、料理など携わるジャンルは多岐に渡る。投げられた球はどんな変化球でもとりあえず打ち返すタイプ。