Articles
カフェも商品開発も手がける 料理家・田村つぼみさんの多様性

カフェも商品開発も手がける 料理家・田村つぼみさんの多様性

田村 つぼみ, 太田 順子

東京・駒込のスタジオ兼カフェ「fudangohan café(ふだんごはんカフェ)」を拠点に活動する料理家・田村つぼみさん。栄養士としての知識を生かし、書籍や雑誌へのレシピ提案、企業の商品開発、子ども向けの料理教室まで幅広いフィールドで活躍しています。どんなきっかけで料理の道に進んだのか、料理家として大切にしていることは。“ふだんごはん”をキーワードに、料理の豊かさをていねいに育てる田村つぼみさんの挑戦と努力を伺います。

目次

「基礎」をしっかり学ぶことの大切さ

「キッチンという場」が好き

都心にありながら、下町風情と自然の癒やしが溶け込んだような居心地のよさを感じる、東京・駒込。料理家・田村つぼみさんが運営するスタジオとカフェ『fudangohan café(ふだんごはんカフェ)』があります。

スタジオとカフェの運営以外に、料理家・栄養士として、書籍や女性誌へのレシピ提案、カフェやレストランなどのメニュー開発、メーカーの商品開発、広告やCMのフードコーディネート……と、マルチに活躍する田村つぼみさん。どのようなきっかけで料理の道を目指したのでしょうか。

料理家 田村つぼみ
料理家の田村つぼみさん

「幼いころから『キッチンという場』がすごく好きだったのを覚えています。キッチンにいると、なぜか落ち着くんですよね。料理はもちろん、図工や美術、裁縫など、手を動かすことが好きな子どもでした。10代に入って夢中になって読んでいたのが、ファッション誌。流行のファッションに心をときめかせながらも、そのなかにある料理のページを食い入るように見ていました」

でもじつは、中学生のときの夢は、動物園の飼育員だったそう(!)。

「動物関連の学科がある高校を受験したら、すべて落ちてしまって……。でも、普通科にいくのはあまり気が進まず、料理も裁縫も好きだったので、家政学科のある高校に進学することにしました。そこからですね、料理への道が少しずつ見えてきたのは」

きゅうりだけのサンドイッチがこんなにおいしいなんて!

高校生になった田村つぼみさんは、ある日の調理実習の授業で衝撃を受けます。

「その日の実習のメニューが、『きゅうりのサンドイッチ』だったんです。最初は、きゅうりしか入ってないのに本当においしいの?って半信半疑だったんですが、食べてみたらあまりのおいしさに衝撃を受けて。きゅうりをていねいに下処理して、きちんと調理すればこんなにおいしくなるんだって、感動しました」

調理の奥深さに感銘を受けた田村つぼみさん。

「料理をするのは好きだったけれど、『基礎』というものをまったく知らないことに気づいたんです。それからは、とにかく家庭科の本をボロボロになるまで、何度も読んで勉強しました。家でも、教科書に載っているレシピを作ってみたり」

そこで学んだ料理の「基礎」は、今でも大いに役立っていると言います。必要な材料や道具、準備や下ごしらえ、包丁の使い方、火の通し方、味つけ……。基礎知識というと、「初心者向き」と思われがちですが、基礎がないとさまざまな情報に振り回されがちです。幅広いジャンルの仕事をこなしながらも、芯のぶれない仕事ぶりは、基礎という「軸」がしっかりしているからかもしれません。

家庭科 教科書 高等学校用 教科書副教材 フードデザイン
「家庭科の教科書には、大切な基礎がたくさん詰まっています」。高等学校用の教科書副教材『フードデザイン』に、食にかかわる仕事をしている先輩として紹介されました(Instagramより)
フードデザイン 高等学校用 教科書副教材
『フードデザイン』(教育図書、2023年)の表紙
マイブック スクラップノート
雑誌の料理ページのレシピや、外食で食べたものを再現して、マイブックを作成していた時期も(Instagramより)

「ABCクッキングスタジオ」の講師として活躍

高校卒業後は短大の栄養学科に進学し、栄養士の資格を取得。卒業後は料理にかかわる仕事に就きたいと考えていましたが、栄養士としてどこかの企業に就職したり、飲食業界で働くのはピンとこなかったそう。そんなとき、たまたま見つけたのが、ABCクッキングスタジオ(※)の講師募集の求人。直感で「これだ!」と思い、応募したところ採用に。料理教室の講師として働くことになりました。

ABCクッキングスタジオ……国内・海外会員約170万人を抱える大手料理教室(2024年4月時点)。日本国内では約100スタジオを展開。通いやすい回数制や、基礎から応用まで豊富なメニューが人気の理由

「講師の中でいちばん年下で、もちろん未経験。『生徒さんたちにバカにされてはいけない』という思いが強かったです。朝から晩まで講師として働き、家では次のレッスンのための試作をして……。とにかく必死でしたね。

せっかくお金を払ってレッスンを受けてくれるのだから、生徒さんが『へえ~』って感心してくれるような専門知識も、たくさん持っていなければいけない。ありとあらゆる料理本を、片っ端から読みあさりました」

そんな努力が実を結び、田村つぼみさんのレッスンは、すぐに満席になるほどの人気に。充実した日々のなか、ある思いが生まれてきたそう。

「講師としての仕事は楽しかったのですが、徐々に『教えるだけではなく、自分も一から料理の勉強をしなおしたい』という気持ちが湧いてきて。自分が本当にやりたいことは何だろうと模索しているときに、『料理研究家』の存在を知ったんです」

ちょうど、栗原はるみさんや有元葉子さんといった著名なかたたちの料理が、ライフスタイルとともによくメディアに取り上げられ、料理研究家の存在が広く知られるようになっていた時期。のちにアシスタントとなる料理研究家・浜内千波さんもテレビで見たのがきっかけだったといいます。

料理研究家・浜内千波先生との出会い

〈直談判〉が実って、人気料理研究家のアシスタントに

クリエイター

株式会社ふだんごはん代表。書籍や女性誌へのレシピ提案、企業のメニュー開発や商品開発、広告やCMのフードコーディネートなど幅広く活躍。東京・駒込にキッチンスタジオとカフェ「fudangohan cafe」を運営。

フリーライター。『オズマガジン』編集部、『オレンジページ』『オレンジページインテリア』編集部など、情報誌やムック本の編集者として出版社に勤めた後、フリーランスに。現在は料理、生活まわりの記事を中心に執筆・編集を手がける。

いいねを押してクリエイターを応援

SNSでシェアする

いま注目のテーマ