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落語×料理で勝負! TVディレクターから小料理屋「やきもち」女将に

落語×料理で勝負! TVディレクターから小料理屋「やきもち」女将に

やきもち女将, 待本 里菜

数多く飲食店が存在するなか、お客さんの心をつかんで運営を継続していくには、そのお店ならではの魅力が大事。「落語・小料理 やきもち」は、〈落語×料理〉というコンセプトが好評を得ています。お話を伺ったのは、オーナーのやきもち女将。元TVディレクターという異色の経歴が、開業に大きく影響していました。

目次

  • お座敷遊び感覚で落語を楽しめる小料理屋を
  • 商売は新陳代謝していくもの。時代に対応し、未来へ

お座敷遊び感覚で落語を楽しめる小料理屋を

東京・秋葉原駅から、歩くこと数分。昭和通りから少し奥に入った、静かな路地にある「落語・小料理 やきもち」。

〈落語×料理〉をコンセプトにしたお店で、20席程度の店内に高座専用のスペースを設け、定期的にプロの落語会を開催しています。落語会を不定期に開催するそば屋やバー、カフェなどはありますが、常設の舞台スペースがないのが一般的。「やきもち」は高座専用スペースがあり、小さな店内だからこそ演者の息遣いを感じ、落語の迫力を味わえます。

店内は和モダンな落ち着きのある雰囲気

ネオンがギラつく繁華街にあらず、されどアクセスはよし。〈上質な遊び〉を求める大人にもってこいの立地に感じられますが、「飲食だけを考えたら、最悪な条件(笑)。繁華街じゃないし、通りにも面してない。『ここでよく頑張るね』って人にいわれたこともあります」と話すのは、オーナーのやきもち女将。

清潔感あふれる割烹着姿のやきもち女将

「いまは通りに看板を出させていただけるようになりましたが、最初はそれもなかったんです。ふらっと“どっかで飲もうか”というかたには、見つけづらい店なんですよね」

現在、お店の目印はこちらののぼり。TV番組『笑点』(日本テレビ系列)の現司会者・春風亭昇太師匠から贈られたもの
ビルの中へ誘うスタンド看板。左奥が店の入口

看板の矢印に従ってビルの奥に向かうと、やっと店ののれんが目に入ります。なるほど、いちげんさんには少し敷居が高い立地ですが、ここを選んだ理由は「落語・小料理 やきもち」が〈単なる小料理屋ではない〉から。

「飲食店の立地としてはイマイチでも、イベント会場と考えたら悪くないんです。イベントなら、お客様は目当てがあるので探して来てくださる。上の階がオフィスで夜は人がいないから、住民のいるマンションと違って清元(きよもと※)などの音楽の会もできる。とにかく〈落語ありき〉〈舞台ありき〉が条件だったので、ここに決めました」

(※清元……江戸時代の後期に生まれた三味線音楽のひとつ)

秋葉原という地を選んだのは、「寄席(よせ※)がないうえ、どの寄席からも30分で来られるから」だそう。「落語好きのお客さんを見込むなら、寄席のそばがいいのでは?」というのは早計。落語家にとってホームである〈寄席〉のライバルにならない場所であることも、大切なマナーです。

物件を探す際、「演者が出づらい場所は絶対選んじゃいけないよ」「そういうスタイルなら、○○界隈はナシだね」など、いろいろな人からアドバイスをもらったという、やきもち女将。演者さんが気持ちよく出演でき、集客も見込め、家賃も抑えられるエリア。自分が〈やりたい店〉のコンセプトを明確にし、条件をしぼって決めたのがこの秋葉原の場所でした。そのかいあって、お客さん、演者さんの双方に愛されるお店に成長し、いまやオープンから7年目を迎えます。

(※寄席……落語を中心に演者が入れ替わりで舞台に立ち、漫才や紙切りなどの伝統芸も楽しめる演芸場)

この日の高座は人気の真打、古今亭駒治師匠。爽快な新作落語を披露

至芸を見せる師匠たちの落語と、おいしい酒肴を楽しむ。江戸の昔、粋な旦那衆が楽しんだお座敷のような、色気のある空間を作りたい。そんな思いから誕生した「落語・小料理 やきもち」。

店名の由来は、落語『悋気の独楽(りんきのこま)』だそう。悋気強い(=嫉妬深い、やきもち焼き)の女房が、夫の浮気をこまで占うちょっと艶っぽいはなしです。店のインテリアとして描かれたこまは、揺れる女心を映した小道具。そう知ると、風情もいっそう深まります。

着物に割烹着、キリリと半幅帯を締めて店に立つ、やきもち女将。きびきび立ち働く小粋な姿に、長年〈落語×料理〉の飲食店開業の道を目指してきたのかと思いきや、もともとは日本テレビのTVディレクターだったという異色の経歴を持ちます。

TVディレクターとして『笑点』との出会いが転機に

学生時代から好きだったのは、ドラマ。大学業後、ドラマ制作者になりたいと日本テレビに新卒入社を果たします。9年かけて助監督からディレクターになった翌年、ドラマ班からバラエティ班に異動。その後、34歳のときに、人気の落語家たちが出演する長寿番組『笑点』の担当に。〈落語〉との深い関わりは、ここからだったといいます。

→ 笑点

クリエイター

1979年生まれ。大学卒業後、2002年に日本テレビに入社。ADを経て、ディレクターとしてさまざまな番組を制作。担当番組は「火曜サスペンス劇場」「マイボスマイヒーロー」「ホタルノヒカリ」「ハケンの品格」「笑点」など。2016年に退職後、同年9月に「落語・小料理 やきもち」を開業し、経営者兼女将に。

東京生まれ。タウン情報誌編集部、広告プロダクションを経てフリーライターに。主な仕事のジャンルは、旅ルポ、インタビュー、ラジオ番組スクリプト、商品コピーなど。動植物などの自然、書籍、映画、古典芸能などのエンタメ系が好き。

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