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ざわつく芸術。おにぎり劇場さんの【超個性的なおにぎりアート】

ざわつく芸術。おにぎり劇場さんの【超個性的なおにぎりアート】

おにぎり劇場, 高丸 昌子

おにぎり劇場さんをご存知でしょうか。SNSから知名度が広がり、テレビでも話題になった超個性的なおにぎり。見た人をざわつかせるユニークさとクオリティは、もう芸術の域! 「おにぎりを制作し、鑑賞し、食べる」という活動スタイルを続ける、謎多きおにぎりアーティスト・おにぎり劇場さんの軌跡を伺いました。

目次

  • おにぎりアートをはじめたきっかけ
  • おにぎりアートのこだわり
  • SNSで作品が広まり、著書も出版
  • 作品が広まるとともに、葛藤も経験

おにぎりアートをはじめたきっかけ

〈おにぎりをにぎって、写真を撮って、鑑賞したらすぐ食べる〉という儚いアートに挑戦している、おにぎり劇場さん。その活動名に込められているように、おにぎりを作る過程を劇場感覚で楽しめるエンターテインメント動画を、各SNSで配信しています。Instagramはフォロワー約14.3万人、Xはフォロワー約5.7万人、YouTubeチャンネル登録者数は約9000人(2024年8月現在)。

お多福
SNSで共通のアイコンにしている「お多福」は初期の作品で、新年のご挨拶用に作ったという縁起物。ご本人いわく、「家族にも確認しましたが、私はこのお多福さんとは全然似ていません(笑)!」

軽い気持ちでおにぎりコンテストに応募

きっかけは、SNSのフォロワーさんが「おにぎりコンテストに応募した」と作品を投稿しているのを見かけたことでした。

「私もやってみようかなと思い、なんとなく作って応募しました。1人何点でもよかったので、〈ゴマフアザラシ〉〈ニット帽の人〉〈麗子像〉の3点を作りましたが……結果は全部ダメでした(笑)」

ゴマフアザラシのおにぎり
ゴマフアザラシ:黒すりごまを混ぜたご飯で作った、ボール型のおにぎりに顔をつけたもの。おにぎりコンテストに応募した(でも落選した)思い出深い作品

じつはその2~3年前に、〈コンテストへ応募する〉こと自体にハマっていたというおにぎり劇場さん。公募情報が載っている専門誌を毎月購入し、できそうなものすべてに応募してみるという趣味を、ゲーム感覚で楽しんでいたといいます。

仕事・家事・育児をしつつ、頭はフル回転で制作をしつづけ、ほぼ毎日なにかの締め切りに追われ、なにかの発表があるという日々を過ごしていたとか。「それなりにワクワク・ソワソワ・ドキドキを味わうことができて楽しかった」と振り返ります。

応募内容は多岐に渡っていました。アート関連ではポスターやキャラクター制作、マークデザイン、アイディア工作など。そのほかのジャンルでも川柳や俳句、料理レシピ……など、少しでも「できそうかな?」と思ったものには(小説以外)手あたり次第、挑戦したそうです。

「じつは、初めて応募したポスターが入賞したんです! それが賞金や景品をいただける企画だったことが、もっと応募しようと思ったきっかけでした(笑)。ですが、それ以降はみごとにすべて落選という哀れな結果で……。惨敗が続き、『徹夜で描いたのにー! うぉぉぉ!』と泣いた夜が何度あったことか(笑)」

そんな生活が1年ほど続いたとき、その状況を見かねた夫から「それだけ続けて集中してなにかを作り出せるなら、出されたお題に対して制作するよりも、自分がやりたい、作りたいと思うようなことに力を注いだら?」と言われ、あっさり納得したのだとか。応募はスパッとやめました。

そんな経緯があったから、「応募することには慣れっこだった」といいます。「久しぶりにちょっとやってみるか」的なノリで、おにぎりコンテストに躊躇なく応募したことが、今につながっています。

某映画の俳優
ニット帽の人:モデルは某映画の俳優。これはおにぎりコンテストに応募したときの作品の進化系。トレードマークの帽子はいなりあげで

素顔は元美術講師。立体制作は苦手だった!?

現在は、フリーのアーティストとして活動している、おにぎり劇場さん。前職は高校の美術講師で、大学時代は教育学部の美術科でデザインを専攻していました。

「360度を意識して作らねばならない立体造形は、じつはいちばんの苦手分野だったんです。今、それに向き合っている状況が不思議です」

1児の母でもあると聞くと、もしかしてすごいキャラ弁を作っていたのでは?と想像しますが……。

「キャラ弁は、息子の小学校の遠足で年2回ほど作っただけ。そういえば、1~2歳の誕生日ケーキは息子が好きな車の形にしていました。ハマーや軽トラの形のケーキ。生クリームで車体の白色を、ココアビスケットでタイヤを再現していましたね」

トヨタ スプリンタートレノAE86
息子さんのリクエストで「トヨタ スプリンタートレノAE86」をモデルに作った、「ハチロク」おにぎり

おにぎりアートは「作ったらすぐに自分で食べる」と決めており、「だれかにふるまうことは一切ない」と言いきります。

「その場に息子が居合わせたら、食べられることもありますけどね(笑)。あとは、息子が高校生のとき、〈大きめのお弁当+三角おにぎり3個+パン〉のセットを毎日用意していたんです。おにぎりは、おなかをすかせている友達にあげたり、物々交換をしたりと、友達とうまく付き合っていくためのアイテムとして役立っていたようです。その子たちが唯一、私がにぎったおにぎりを食べていた人たちかもしれませんね(笑)」

おにぎりアートのこだわり

おにぎりコンテストでの入賞は叶わなかったものの、作ったおにぎりアートを個人のSNSに投稿すると、フォロワー内で大人気に! 「もっと見たい!」との声から、「おにぎり劇場」としての専用アカウントを作成し、2020年にYouTubeで動画投稿を始めました。

動画では超個性派おにぎりのメイキング過程が見られて、ご飯と身近な食材が「まさか!」な形になっていく様子を楽しめます。本当に劇場を見ているような、エンターテインメント作品。おにぎりアートの制作から、動画撮影、編集まで、すべておにぎり劇場さんがひとりで行っています。

ご飯と具材で再現できるモチーフを選定

おにぎりアートの制作は、まずはご飯と具材で〈再現できそうな色と形〉を持ち合わせているモチーフを選ぶことから始まります。おにぎり劇場さんの作るおにぎりは、どんなものでも最後にご自身で食べることが前提なので、味も重視。着色料などを添加した無理のある装飾はなく、どれもご飯に合う身近な食材で成り立っています。

「安定感のある形で、表現できそうだなと思えるものを、季節や流行を意識して探します。インパクトがあるものや、かわいいものが好きなので、そういう系統が多くなりがちですね」

かっぱ
かっぱ寿司:材料はすし飯ときゅうりだけ。毛と目はきゅうりの皮で表現。しょうゆにつけて食べるのがおすすめだそう

どれも一発勝負! 練習・試作は一切なし

    クリエイター

    高校の美術講師などを経て、フリーのアーティストとして活動中。2019年、某おにぎりコンテストへの応募をきっかけにおにぎりアートに目覚め、SNSで作品を数々発表。各メディアから注目を集め、著書『OH! ざわつくおにぎり』(2021,小学館)を出版。

    出版社勤務(飲食業界専門誌、育児誌、料理誌、女性誌など)を経て、フリーランスの編集者・ライターに。食や生活まわりのテーマを中心に、雑誌・書籍・WEBなどで執筆。人物インタビュー、市井の人への取材も大好き。お茶する時空間をこよなく愛する。

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