燻製の魅力にひかれ、現在「日本燻製協会」代表理事であり、「燻製ニスト」として活躍している佐藤暁子さん。自宅で手軽にできる燻製「イエナカ燻製」を提唱し、燻製レシピ本の出版、料理教室、メディア出演などを通じて、燻製の魅力を広めています。会社員を経て燻製バーをオープンした経緯や、燻製文化を浸透させるための活動内容を伺いました。
目次
- 自宅で手軽にできる「イエナカ燻製」
- ほんのひと手間で豪華なおもてなし料理に
- 会社員を辞めてカフェバーを開業、そして「燻製ニスト」に
- 協会を設立したことで見えてきた新たな世界
- 燻製をブームで終わらせない
自宅で手軽にできる「イエナカ燻製」
燻製の魅力を一人でも多くの人に伝えたい、という思いから「一般社団法人 日本燻製協会」を設立し、自ら代表理事を務める佐藤暁子さん。自身が提唱する「イエナカ燻製」についてお話を伺うと、朗らかな笑顔と軽快な口調でその魅力を語ってくださいます。
「器具の準備が大変そう、時間がかかりそう、火加減が難しそう……などの理由から、既製品やお店で食べるイメージの強い燻製。ですが、じつは特別な専用器具がなくても自宅のコンロで簡単に作ることができるんです」
「イエナカ燻製」は、文字どおり家の中で行う燻製。80℃以上の高温で、1~20分程度の短時間で燻煙する「熱燻(ねつくん)」という方法を用います。20℃以下の低温で1日~1カ月かけてじっくり燻す「冷燻(れいくん)」や、60~80℃の温度で3時間~半日程度かけて燻煙する「温燻(おんくん)」といった方法もありますが、「熱燻」はそれらよりも短い調理時間で、手軽に燻製が楽しめるといいます。
「熱燻はほかの方法に比べて温度管理がむずかしくないので、初心者でも安心。下ごしらえもほとんど必要なく、手軽でありながらしっかりと香りがつくので、幅広い食材を燻製できるというのも魅力です」
また、「イエナカ燻製」では専用の燻製器が不要なのも大きなポイント。
スモーカーには自宅にある中華鍋やフライパン、ボールなどを使います。これらの底にアルミホイルを敷き、スモークチップをひとつかみのせ、スモーカーの直径よりやや小さめサイズの網をセットし、鍋やフライパンのふたを用意すれば準備は完了。
「スモークチップはホームセンターなどで販売していますが、ちょっと量が多いんですよね。なので、初めてなら100円ショップで売っているものでも充分。鍋やボール、網なども100円ショップですべて揃いますよ」
あとは、網の上に燻製したい食材をのせ、ふたをしたら火にかけるだけ。思った以上に「燻製」が身近に感じます。
ほんのひと手間で豪華なおもてなし料理に
それにしても、佐藤暁子さんの燻製レシピは本当に簡単そう! 必要なものがすべて100円ショップで揃うというだけで、まずはぐっと敷居が下がります。気になるにおいの問題も、熱燻は〈弱火かつ短時間〉で行うため、換気扇を最強にしておけばキッチンの中ににおいが残ることはほとんどないそう。
この方法でチーズやポテトチップスなど、さまざまな食材を燻製できますが、なかでも佐藤暁子さんのイチオシは「くんたま(燻製たまご)」。
「味つけ卵を燻製するだけのシンプルなものですが、卵のゆで具合や、卵を漬けるめんつゆの塩梅、浸け時間、燻製方法など、試行錯誤の末に行き着いた渾身のレシピをお伝えしています。ほんの少しコツをおさえるだけで世界一おいしいくんたまが作れるので、ぜひ試していただきたいです」
もうひとつ、初心者におすすめの燻製として塩鮭を挙げてくれました。
「スーパーで買ってきた塩鮭を、キッチンペーパーなどで水分とれば、そのまま燻製にできてすごくおいしいですよ。いぶすだけでは中まで火が通らないので、最後に軽く焼いてくださいね」
なるほど、それなら不器用で面倒くさがりな筆者でも挑戦できそうな気がします。じつは過去にベーコンを自作したことがある筆者。豚肉を調味液に浸けて、塩抜きして、乾燥させて、器具を揃えて、家じゅうをモクモクにして家族に迷惑がられ……と、1週間以上かけてできあがったときには、すっかりテンションは下がってしまっていたものでした。
こう話すと、「ベーコンも1日でできるようなレシピにしてますよ」と佐藤暁子さんは笑います。
「燻製の魅力は、ほんのひと手間で豪華なおもてなし料理になるところだと思っています。なので、基本的にスーパーなど身近な場所で手に入る食材を使い、なるべく簡単にできるようなレシピ作りをしています」
会社員を辞めてカフェバーを開業、そして「燻製ニスト」に
佐藤暁子さんと燻製の出会いは、いまから20年以上前のこと。
「写真教室に通っていたのですが、そこで同じ生徒として会ったかたが、ある日、自家製のスモークチーズを差し入れてくれたんです。
当時は家で燻製する人なんていなかったので、自宅でできるものなのかと驚きましたね。興味をもった勢いでホームセンターへ向かったところ、燻製グッズが販売されていることを知りました。燻製器の構造をよく見たら自分でも作れそう、と思い、段ボールで自作したのが始まりです。
当時は燻製に関する情報などほとんどなかったので、とにかく本を読み漁りましたね。興味が出たらとことん突き詰めるタイプなんです(笑)」
そのころ、会社員として事務系の仕事をしていた佐藤暁子さん。カフェをやってみたいという思いから、料理教室やお菓子教室、パン教室などに通いつつ、燻製は趣味として楽しんでいたそう。
「本などで調べていると、『開業資金に1000万円』とか書いてあって、絶対無理!となかなか踏み出せずにいました。そんなとき、知人の紹介で居抜きの店舗を貸してもらえることになって。これはチャンス、と思いきって仕事をやめ、カフェバーを始めたんです」
こうして15年あまり続けた、会社員という肩書きから卒業。2011年に東京・目黒に念願のお店をオープンさせました。初めはカフェとバーを並行させていましたが、次第に夜の営業に絞っていくと「燻製バー」として話題に。
鯖を愛する「サバニスト」として活動する知人からインスパイアを受け、自らを「燻製ニスト」を名乗り始めたのもこのころです。
協会を設立したことで見えてきた新たな世界
クリエイター
燻製の魅力にひかれ、会社員を経て燻製バーをオープン。燻製のおいしさ、魅力、作ることの手軽さを日本の家庭へ届けたい、一人でも多くの人に伝えたい、という思いから「日本燻製協会」を設立。自宅で手軽にできる燻製「イエナカ燻製」を提唱し、料理本の出版、料理教室などで活躍中。
フリーライター。『地球の歩き方』や『ことりっぷ』などの旅行誌を中心に、紙・ウェブ問わずさまざまな媒体の企画や取材、編集、執筆を手がける。あるときはインド仕込みのヨガインストラクター、東京 下北沢にある場末酒場のバーテンダーなど、別の姿も。