スペイン家庭料理教室「mi mesa(ミ・メサ)」主宰の料理研究家・丸山久美さん。スペインの家庭料理をベースにした、心もお腹も満たしてくれるレシピを、著書やテレビでも数多く紹介されています。修道院を巡り、料理やお菓子を教わることがライフワークのひとつでもある丸山久美さんに、スペイン料理の魅力、料理家の道を歩むようになった経緯をお伺いしました。
目次
- スペイン料理は、じつはヨーロッパ料理の歴史の立役者
- マドリードでの暮らしで、スペイン料理の魅力にハマる
- スペイン料理の奥深い魅力をこれからも伝えたい
スペイン料理は、じつはヨーロッパ料理の歴史の立役者
ツアーコンダクターの仕事で出会ったスペインで暮らすことに
子どものころから、「将来はいろんな国へ行ってみたい」と夢見ていた丸山久美さんは、アメリカ留学を経て、ツアーコンダクターの道へ。世界中さまざまな国を巡ったそうです。いつかはイタリア・フィレンツェへ留学したいと漠然と思っていたそうですが、大学でスペイン語を学んでいたこともあり、スペインを担当する機会が多かったのだとか。
「そのころのスペインはまだ高速鉄道もなく、国を南から北へと縦断するのももっぱらバス移動。スペインでの添乗はすごく大変だったから、どちらかというと嫌いだったんですよ(笑)。まさか自分がそのあと、スペインで何年も暮らすことになるとは思ってもいなかったです」
そんなとき、スペイン在住の日本人男性と出会って結婚。子どもにも恵まれ、マドリードに住み始めます。数年経ったのち、スペインでの生活にも慣れてきた丸山久美さんは、一念発起します。
「30代半ばになり、将来は仕事をして自立したいと思って、自分には何ができるだろうと考えてみたんですよね。それで、自分は料理が好きだし、せっかく現地にいるのだから、スペイン料理についてしっかり勉強してみようと思い立って。図書館でスペインの歴史を調べたり、現地の料理教室に通い始めたりしたんです」
ちょうど、スペインの超有名レストラン『エル・ブジ※』がピンチョス(串に刺した一口サイズのフィンガーフードの総称)をメニューに加えるなどして、ピンチョスが流行り出していたころ。丸山久美さんはスペインバル(スペインの軽食喫茶、酒場、バー)を巡り、自分なりにランキングをつけたりするのがおもしろかったといいます。文献をひもとき、現地の人に話を聞き、食べ歩きを楽しむうちに、すっかりスペイン料理への印象が変わっていったそうです。
(※エル・ブジ……スペインのカタルーニャ州にあった「世界一予約が取れないレストラン」と呼ばれた伝説の三つ星レストラン)
ヨーロッパ料理の基本の多くはスペインにあった
丸山久美さんは、スペイン料理について学んでいくうちに、その魅力の奥深さにどんどんハマっていきました。
「歴史を知ると、スペインって、じつはフランスやイタリアなどをはじめ、世界の料理やお菓子の発展に深く関わっていて。そういうことを知るたびに、尊敬の気持ちが湧いてきました。
じゃがいもやトマト、ピーマン、さつまいも、かぼちゃなどなど、イタリア料理やフランス料理はもちろん、ふだんから私たちにとっても身近な食材の多くは、スペインの黄金世紀である大航海時代に、新大陸からスペインへもたらされたものなんですよね。韓国料理に欠かせない唐辛子もそうなんです。
もしも、スペインから派遣された探検家・コロンブスがそれらを持ち帰らなかったら……。もしも、スペインの女王と国王が研究を認めず、スペイン料理に取り入れなかったら……。ヨーロッパ、いや世界の料理の歴史もだいぶ違っていたかもしれないと思うと、すごく興味深くて。
たとえばチョコレートの歴史。もとはアステカ王国(※)の特権階級の嗜好品だったカカオが、スペインへと渡り、ヨーロッパへ広がっていったのですが、スペインの修道士たちが、砂糖やバニラ、シナモンなどを加えて甘くするなど研究を重ねて、現在のチョコレートが生まれているんです」
(※アステカ王国……15~16世紀頃、現在のメキシコにあった王国。スペインによって征服された)
「カステラやマドレーヌ、チュロスなどもスペインが発祥で、スポンジケーキもそう。スペイン(カスティーリャ王国)の修道女が、卵を泡立てて、その泡を保つ技術を発明し、あのふわふわとした食感のケーキが生まれたんですよ。
ほかにも、マヨネーズの発祥はスペインのメノルカ島。フランスのリシュリュー公爵が、メノルカ島で中世から食べられていた、オリーブオイルやにんにく、卵黄、レモン汁などを混ぜたソースをたいそう気に入り、フランスでシェフに再現させたのが始まりという話など、原型が“スペインで作られたお菓子や料理”ということが、じつはけっこうあるんです」
マドリードでの暮らしで、スペイン料理の魅力にハマる
食いしん坊のスペイン人は食事をとても大切にする
歴史あるスペイン・マドリードは、さすが首都。日本でいう豊洲市場のような場所があり、海に面していない内陸の街なのに、魚介類を含め、スペインじゅうの食材がいち早く集まってきます。地方では、家で「おふくろの味」を楽しむ人が多いのに比べ、マドリードの人たちは、外食も好きだし、スペインのさまざまな地方の郷土料理やいろんな国の食事を食べるそう。
クリエイター
料理教室「mi mesa(ミ・メサ)」主宰。アメリカ留学後、ツアーコンダクターとして世界各地をまわる。スペインに仕事で訪れたことをきっかけに、マドリードに14年間滞在しながらスペインの家庭料理を学ぶ。帰国後、雑誌などの編集ライターを経て料理本を出版。料理研究家として、料理教室、書籍や雑誌、テレビやイベントなどでスペイン料理を軸にした料理を提案中。
ぴあ、TBSを経て、フリーの編集・ライターに。旅や衣食住、エンタメ関連などの媒体で、企画や取材、編集、執筆を手がける。ブックライターとしてビジネス書の企画やライティングも。2023年現在、パーキンソン病を患う両親の介護経験を本にする準備中。モットーは「人生、最後まで冒険を!」