植松良枝さんは、野菜たっぷりの季節感あふれる料理を得意とする料理家。料理教室を主宰し、書籍や雑誌、テレビなどで活躍中。ライフワークとして東京の自宅近くにある菜園で野菜やハーブ作りに取り組み、四季の移ろいや食を考えるイベントも多数企画しています。今回はライフワークである「畑仕事」が、植松さんの生活や料理家としてのお仕事にどう影響しているかをお聞きしました。
目次
- 祖父母が育てた野菜の味が原点。畑仕事もライフワークに
- いちばんの楽しみは成長の観察。おおらかにその年の恵みを楽しむ
- 旬を味わう、季節を楽しむ。摘み草から始まる一年の野菜暦
祖父母が育てた野菜の味が原点。畑仕事もライフワークに
野菜を主役にしたレシピが人気の料理家・植松良枝さん。その原点は、祖父母が山の斜面を開墾し、丹精込めて育てていた畑の恵みです。子どものころに畑仕事を手伝ったという記憶はなく、当時はただ周囲で楽しく遊んでいただけだったとか。実家を出るまで「自家栽培の採れたて野菜を食べるのが当たり前だった」と話します。
食を仕事にすると決意した20代。都会の飲食業界で働きだしたとき、実家の食卓で食べていた野菜のおいしさを再認識したそう。「うちの畑の野菜の味が好き!」そう気がついた植松さんは祖父母のもとに行き、農作業を手伝いながら野菜作りを覚えていきました。
2006年、料理家として初めて出したレシピ本のタイトルは『畑のそばでうまれたレシピ 温かい野菜料理』(オレンジページ)。自ら野菜を育て、レシピを考え、発信する。いまも深めながら進化している、植松流仕事スタイルのはじまりです。
プロフェッショナルとしての軸にもなっている〈野菜作り〉は、忙しい子育てとも並行しながらも続けるライフワークに。ライフステージに合わせ、柔軟に野菜作りと向き合ってきました。母となり、お子さんとの時間も大切にしながらの現在は。
「忙しいときは、週に一度、畑に行ければいいほうでしょうか。4月は絹さややスナップえんどうが収穫できる時期ですが、去年はお休みしたので今年は遅まきの晩成型を植えました。いま15cmくらいかな? これから育ってくるのが楽しみです。こぼれ種で芽を出したルッコラも元気でうれしいですね」
祖父母の手伝いからはじまった畑仕事も、いまや20年近く経つベテラン。この春、アスパラガスも10本ほど収穫しました。アスパラガスは、植えた年にすぐ収穫できる一年草(※)と違い、収穫は少なくとも植え付けから3年目以降とされる、栽培に気の長さも必要とされる野菜です。
(※一年草……種から発芽して1年以内に、生育、開花、結実する植物のこと。代表的な野菜では、トマト、きゅうり、なすなどの夏野菜や小松菜やホウレンソウなど葉物野菜が一年草)
「アスパラは地下茎で育つので、しばらく同じ場所に植えておかなくちゃいけないんです。やっと株が育ってきたので、“今年から収穫していいよ”、って自分にオッケーを出しました(笑)。塩ゆでしたり、蒸したり。ディップをいろいろ変えて、存分に味わいました」
いちばんの楽しみは成長の観察。おおらかにその年の恵みを楽しむ
自分で育てた野菜で料理を作る。憧れる人も多い野菜栽培ですが、いざ園芸書や野菜作りの本などを見ると、土づくり、温度管理、雑草・害虫対策など、収穫のためにはやることが目白押し。つい腰が引けてしまいがちです。でも、多くの世話が必要になるのは「たくさん収穫するため」のノウハウだから。植松さんは「育てばいいよね、くらいの感覚でやっている」と微笑みます。
「出荷しなければならない農家さんと違い、家庭菜園は適量が採れればいいですよね。私は寒冷紗(かんれいしゃ※)をかけたりもしませんし、その年の気候に応じたでき具合でいいかな、って。病害虫対策もあまりしていなくて、収穫できたものをありがたくいただく、という感じでしょうか。東京の畑でどうもバジルはうまくいかないなぁ、と思ったら、テラスのプランターですくすく育ってくれたり。日当り、風通し、いろんな条件があると思うんですが、同じ植物でも、場所によって生育が違ったりするのも面白いんですよね」
(※寒冷紗……植物をおおって保護する資材。防寒、防風や防虫の目的で使われる)
温度や湿度のバランスや降雨のタイミングなど、条件が合うと予想外の大収穫になる年も。「実りが少なくてがっかりしたことはないんですが、トマトが実りすぎた年は収穫が追いつかなくって困ったなぁ~って。最後はカナブンのごちそうになっていました(笑)」
植松さんのこだわりは無農薬と有機肥料。初心者にはハードルが高い気もしますが、「植えると意外と育ってくれるもの。とりあえず、何か苗を買って植えてみる。野菜ってどういうふうに花が咲き、実をつけるんだろう、って観察する気持ちではじめてみるのもいいと思います」。
まいた種や植えつけた苗が一週間後、ひと月後にどんな姿を見せてくれるのか。「成長を見守るって楽しいし、豊かな気持ちになれる」と植松さん。いきなり畑は無理でも、ベランダや窓辺でひと鉢から育てるのも、自家栽培の第一歩です。スーパーや八百屋さんに並ぶ前の「植物」としての野菜の姿。そこからの新たな発見が魅力と語ります。
クリエイター
野菜たっぷりの季節感あふれる料理を得意とする料理家。料理教室を主宰し、雑誌、テレビなどで活躍中。東京の自宅近くにある菜園で野菜やハーブ作りに取り組み、四季の移ろいや食を考えるイベントを多数企画している。
東京生まれ。タウン情報誌編集部、広告プロダクションを経てフリーライターに。主な仕事のジャンルは、旅ルポ、インタビュー、ラジオ番組スクリプト、商品コピーなど。動植物などの自然、書籍、映画、古典芸能などのエンタメ系が好き。