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キャンプ飯研究家・ベランダ飯さんの先見の明と、ロジカルな発信力

キャンプ飯研究家・ベランダ飯さんの先見の明と、ロジカルな発信力

ベランダ飯(吉岡 智将), 土屋 朋代

キャンプ飯研究家のベランダ飯(本名:吉岡智将)さん。普段は大手IT企業の会社員として働きながら、「ベランダ飯」の名で数々のメディアやSNSで大活躍。さらに、ハンドルネーム「サンツォ」名義で、ブログ『マクサン』などを多数運営しているうえ、自らも会社を経営。聞いているだけでも頭がいっぱいになるタスクを、どのようにこなしているのか。SNSを成長させる戦略と、ベランダ飯さん流“副業のススメ”を伺いました。

目次

  • アカウントで一番重要なのは“コンセプト”
  • アカウントを成長させるための戦略的テクニック
  • 書籍化を狙うなら日々の撮影や投稿を大切に
  • マルチタスクをこなすコツと副業のススメ
  • 新たなフィールドを次々と開拓

アカウントで一番重要なのは“コンセプト”

365日、毎日キャンプ料理・アウトドア料理を発信し続けている、キャンプ飯研究家・ベランダ飯さん。

2024年6月現在、13万人のフォロワーを誇るInstagram『ベランダ飯』をはじめ、ブログ『ベランダ飯』、『おいしい宅食』など、さまざまな人気メディアを運営していますが、これらはなんとすべて副業。普段は大手IT企業でWebマーケティングやオウンドメディア、商品企画を担当しているという異色のマルチプレーヤーです。

ベランダ飯さん
ベランダ飯(本名:吉岡智将)さん。大手IT企業で働きながら、自身でも会社を経営している

「副業歴は10年くらいです。はじめは節約系、投資、家計管理、マネーハックといった内容のブログからスタートしました。それがうまくいったので“ブログ論”という、いわゆる“ブログを教えるブログ”、つまり、ブログでマネタイズする方法を教えるブログを、7~8年前から始めました。これらは今も継続していますが、並行して4年ほど前からこれらのブログをSNSにも展開し始めました」

Instagramを本格的に始めた経緯をこう語るベランダ飯さん。

マクサン
ベランダ飯さんが「サンツォ」という活動名で共同運営する、ブログ論ブログ『マクサン』

4年ほど前というと、ちょうど新型コロナウィルスが猛威をふるい出したタイミングです。

「コロナ禍で在宅勤務をするようになると、お昼の1時間のランチタイムを自宅でとりますよね。その1時間で何かできないかな、と考えたときに、ごはんを作って料理する様子をSNSで発信したらおもしろいんじゃないかと思ったんです」

こうして「料理のアカウントを作ろう」と決めたものの、「何かと組み合わせなければ」と考えて目をつけたのが、当時流行し始めていたキャンプでした。今でこそキャンプ料理のアカウントはたくさんありますが、当時は個人で発信している人はほとんどいなかったそう。

「じつはもともと、僕はキャンプが好きとか興味があったわけではなかったのですが、ビジネス的にひらめいたんですよね。アカウントで一番重要なのはコンセプトなんです。世の中にレシピのアカウントは星の数ほどあるので、同じようなものを出しても絶対ウケない。何かと組み合わせたり、ひとつの分野の細かいところにフィーチャーしたり、まずはコンセプトの戦略を考えるのが“バズるアカウント作り”の第一歩だと思います」

こうして、「ランチタイムに料理を作る」×「ブームになりつつあるキャンプ」を組み合わせ、「自宅でアウトドア気分を味わう」というコンセプトのもと生まれたのが、Instagram『ベランダ飯』でした。

「キャンプブームの盛り上がりとともに、フォロワーさんも増えました。タイミングや運がよかったんですよね。ラッキーでした」

本人はこう笑いますが、決して運だけではないことが、このあとのお話で少しずつわかっていきます。

アカウントを成長させるための戦略的テクニック

Instagram『ベランダ飯』には、

  • 電子レンジを使わない
  • 屋外でもできる調理をする
  • 調理器具はすべてキャンプギアを使う

などの大まかなルールが設けられています。

「レシピは、SNSでバズっている料理をキャンプ飯風にするとどうなるんだろう、キャンプでこれを作るとどんな調理方法になるんだろう、とアレンジを考えることも多いです。また、キャンプの際は地方のスーパーや道の駅で食材を調達することを想定して、そこで売っているような旬の食材を取り入れることも意識しています。リアリティがあるほど、すぐに試したいという気持ちになりますよね」

また、「材料の種類を多くしすぎない」「手の凝りすぎたものは作らない」というのも重要なポイント。手間のかかる料理はあまり〈いいね!〉がつかず、エンゲージメントが低いのだとか。

長ねぎ さけるチーズ ベーコン ホットサンドメーカー 串焼き
「長ねぎ」と「さけるチーズ」をベーコンで巻き、ホットサンドメーカーで串焼きに

レシピの内容だけでなく、公開方法にもこだわりがたくさん。
まずは、頻度。

「Instagramでは1日1回、できる限り同じ時間での投稿を意識しています。これは、フォロワーさんに自分の投稿を見てもらうこと習慣化してほしいから。『毎日、この時間にベランダ飯のレシピ投稿が見れる』というすり込みができれば、より能動的な訪問を促すことができるからですね」

次に、編集方法。

「Instagramは1枚目と2枚目の写真で勝負が決まるので、そこに心に刺さる、印象に残るキーワードを添えています。最近の人たちはあまり字を読まない傾向にあるので、文字が多すぎないように、また、漢字ばかりにならないように気をつけています」

ひとつの投稿に、さまざまなアングルの写真や動画など、10個ほどのメディアが載っているのも、このアカウントの大きな特徴です。理由を聞くと、

「Instagramは、閲覧時間(ステイタイム)が長いほど露出される、というアルゴリズムがあるんです。なので、たくさんのメディアをつけて、なるべく長く滞在してもらえるよう工夫しています」と、なるほど!な回答が返ってきました。

メスティン ご飯 海苔 牛カルビ肉 卵黄
メスティンで炊いたご飯に海苔と牛カルビ肉がたっぷり。卵黄がギルティ

そして、ビジュアル。

「毎日アップしていくなかで、肉汁どばーっ、チーズとろーり、にんにくがっつり、のような、ギルティな投稿ほどウケることが途中でわかって。そちらに舵をきったのも、フォロワーさんが増えた大きなきっかけのひとつでしたね」

たしかに『ベランダ飯』の投稿を見ると、全体的に茶色が目立ちます。多くの料理研究家さんの投稿は「明るく淡め、彩り豊か、きれい」な雰囲気なのに対して、『ベランダ飯』に並ぶ写真は「逆光気味、陰影はっきり、やや暗め」な写真が印象的。これも意識的にしているのだそう。

「最初のころは妻からも、何でもっと鮮やかにしないの? と言われました。彩りにトマトとかハーブとか使えばいいのでしょうけど、面倒くさいので、僕はそのままで(笑)。美しさよりも“肉汁、照り、シズル感”で勝負しています」

色鮮やかな料理写真もいいですが、そうなんですよ、ギルティ飯って、眺めているだけでワクワクするエンタメ要素があります! そして、これも大きな個性として、“ほかとの差別化につながる”という効果もあるのです。

いやはや、すべてのアクションに意味があったとは……なんとも戦略的!

「はじめにコンセプトを決めつつも、続けていくなかで反応を見ながら検証し、微調整をしていくのがアカウントの成長には不可欠です。僕も毎日投稿しながらテストを繰り返した結果、今のスタイルにたどり着きました。PDCA(※)は本業のマーケティングでも大切にしているので、その経験も活きているのかもしれません」

※PDCA……Plan/計画、Do/実行、Check/測定・評価、Action/対策・改善

とはいえ、やはりはじめのコンセプトとして、まだブームになりかけだった「キャンプ」を選んだベランダ飯さんの先見の明には、感心するばかりです。

「マーケティングの世界では、世間より早めに動く意識をしていないと、あっという間に取り残されてしまうんです。なので、流行りの一歩前をキャッチする意識が強いのかもしれませんね」

書籍化を狙うなら日々の撮影や投稿を大切に

クリエイター

1976年12月、東京生まれ埼玉育ち。東京都在住の3児の父。合同会社田舎暮らし 代表取締役。「ベランダ飯」のほか、ハンドルネーム「サンツォ」名義で、ブログ『マクサン』などを多数運営。ブログのオンラインサロン『マクサン』の共同オーナーも務める。

フリーライター。『地球の歩き方』や『ことりっぷ』などの旅行誌を中心に、紙・ウェブ問わずさまざまな媒体の企画や取材、編集、執筆を手がける。あるときはインド仕込みのヨガインストラクター、東京 下北沢にある場末酒場のバーテンダーなど、別の姿も。

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