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“季節を感じる”がコンセプト。アトリエも持つ「ゆうこのこよみ弁当」

“季節を感じる”がコンセプト。アトリエも持つ「ゆうこのこよみ弁当」

岩見祐子, 佐々木 早貴

まるでキッチンスタジオのような、おしゃれで広々とした空間のアトリエ。“暦をめくるように季節を感じるお弁当”がコンセプトの「ゆうこのこよみ弁当」は、2024年5月にイートインスペースを併設したアトリエをオープン。店主の岩見祐子さんがお弁当を作り始めたきっかけや、こよみ弁当のこだわり、さめてもおいしいお弁当作りなどについてお話してくださいました。

目次

  • 失敗から始まったお弁当作り
  • 岩見祐子さんの3つのこだわり
  • さめてもおいしいお弁当にするために
  • いろんな可能性を秘めたアトリエに

失敗から始まったお弁当作り

お弁当箱いっぱいに詰められたおかずとご飯。季節の食材を使った彩り豊かなおかずは見た目にうっとり、食べればそのおいしさにまたうっとり。

2024年5月、暦は「蚕起食桑(カイコオキテクワヲハム)」。おかずは、新ごぼうのラペや鮎の甘辛山椒煮など

前日までの予約制で販売するお弁当は予約完売してしまう日が多く、たまにInstagramのストーリーズにアップされる “当日販売あります”のお知らせも、あっという間に売りきれてしまっている様子。お弁当のことを聞く前に、まずは店主・岩見祐子さんのご経歴についてお聞きしました。

「ゆうこのこよみ弁当」店主・岩見祐子さん

飲食の道へ進むきっかけ

鳥取県出身の岩見祐子さんは、大学進学のため大阪に上京。就職しようと就活するもうまくいかず、さらに当時はやりたいこともなかったため、大学を1年間休学することにしたそう。休学中は何をされていたのでしょうか。

2024年6月、暦は「梅子黄(ウメノミキバム)」。おかずは、九条ねぎと枝豆のサモサ風や、えびとバジルのオクラ詰めなど

「カナダにワーホリ(※)に行ったんです。昔から海外に興味があったことや旅行も好きだったので、行ってみようと思って。日本に戻ってきて大学を卒業したあとも、いろんなバイトを掛け持ちしながらお金を貯めて、お金が貯まったら1カ月間バッグパッカーしに海外へ行く!みたいな生活をしていました」

※ワーホリ……ワーキング・ホリデーの略称。日本が協定を結んでいる国や地域で、働きながら一定期間の休暇を過ごすことができる制度

インドのお弁当文化にも興味を持ったのをきっかけ購入した、インド製のお弁当箱。この日はトマトキーマカレーを詰めたそう

「海外でいろんなものを食べたり飲んだりするようになったことで、飲食に興味が湧いてきたこともあって、20代半ばから大阪・北新地(※)のイタリアンバーで働き始めたんです。

ホールの仕事だったんですけど、もうそこでけちょんけちょんになって……。北新地という土地柄もあってすごい人もたくさん来るし、当時はこんなに大阪弁を流暢にしゃべれなくて(笑)、そういう世界に馴染めなかったんです。

だからもうちょっと身近な場所、働きやすそうな場所で働こうと思って、天満のワインバーに移って、そこで初めて料理やワインのことをやるようになりました。ここでの経験が私の飲食のベースとなっているというのは、結構あります」

※北新地…大阪市北区の歓楽街。東京・銀座と並ぶ高級飲食店街でもある

一皿に盛りつけるのが好き

ワインバーで働くまで、ほぼ料理の仕事はしたことがなかった、と話す岩見祐子さん。それならば、ワインバーで働き始めたころは苦労も多かったのでは。

「お店で毎日、突き出し(お通し)を3種類出さなきゃいけなかったんです。毎日自分で3種類考えて、作って、出すというのは、なかなか鍛えられたなという感じはあります。このころから、料理の勉強も兼ねてよく食べ歩くようにもなりました。

あと、お店で前菜の盛り合わせも出していたんですけど、私、盛り合わせを作るのがすごい好きだったんですよ。一つのお皿に何種類かの前菜を盛りつけるというのが楽しくて、それは今“お弁当を詰めるのが好き”につながっているなと思います」

2024年5月、暦は牡丹華(ボタンハナサク)。鶏のから揚げや鴨のロース煮を詰め込んだオードブル
2024年7月、暦は七夕。大葉のガスパチョや鱧の天ぷらを詰め込んだオードブル

お弁当作りで広がる世界

飲食店で着実に経験を積んでいった岩見祐子さんですが、飲食業ならではの夜型の生活リズムを変えたいという思いから、一時飲食の仕事から離れたこともあるそう。しかし、いろんな巡り合わせもあり、朝型の生活リズムで働けるホテルのカフェラウンジで、再び飲食に携わるようになります。

ところで、お弁当を作るようになったのはいつごろから?

「お弁当作りは結婚してからです。夫から『作ってくれ』と頼まれたわけではなく、家計のことを考えたら、お弁当作ったほうがいいよなって思ったのがきっかけです」

ある日の旦那さん用の弁当。この日はサンドイッチ
また別の日の旦那さん用のお弁当。そぼろご飯に焼きのりを敷いて、焼き鮭とちくわの磯辺揚げをのせたのり弁

「最初は100円ショップで適当なお弁当箱を買ってきて、冷凍ごはんを詰めたんです。そしたら、まぁ、まずいまずい(笑)。夫の職場には電子レンジがなかったんですよね。

なので、そもそもの私のお弁当作りの大前提としては、まず『電子レンジなしで、おいしくごはんを食べられる方法ってなんだろう』というところから始まって、それでたどり着いたのが、“曲げわっぱ”のお弁当箱です。

曲げわっぱに詰め始めたら、めっちゃ楽しくなって色々調べてみたら、自分の知らないお弁当の世界が広がっていてびっくりしました。そこからInstagramにお弁当の写真をどんどんアップするようになっていった感じです」

この日のメインはプラムソースの海老マヨ
2024年、年初め一発目のお弁当はちらし寿司。お弁当箱は輪島キリモト(@wajimakirimoto) さんの 「あすなろ弁当箱」

Instagramの投稿を続けていくなかで出会ったのが、大阪梅田にある阪神百貨店さんが運営する「阪神おべんとう部」だったそう。

「『#阪神おべんとう部』というハッシュタグをつけて写真を投稿すると、その中から数人が阪神おべんとう部の部員として選ばれる、という企画があることを知って応募したんです。

だけど1期には選ばれず……。選ばれなかったのがめっちゃ悔しくて、そのあともハッシュタグをつけて投稿し続けていたら、2022年の2期に選んでいただけて!

阪神おべんとう部の部員として、料理や食材、調味料のことを学ばせてもらったこともそうですが、“チオベン”こと、山本千織さんのお弁当詰め込み現場に潜入させてもらい、間近でお弁当を詰めている姿を見せてもらったりと、貴重な経験をたくさんさせていただきました」

阪神おべんとう部の部員のみなさんが作ってきたお弁当

お弁当屋さんとして活動開始

そんな日々のなかで、Instagramの投稿を見た友人から「お弁当を食べてみたい」と言われたのをきっかけに、夫の分と合わせて、友人の分も作って届けるようになっていった岩見祐子さん。

徐々にその数が増え、気がつけば毎週頼んでくれる人もでてきたそう。徐々に「お弁当屋さんをやりたい」と思い始めた岩見祐子さんですが、飲食の経験があったといえども、自分の場を持つことに対して不安なかったのでしょうか。

「不安はゼロではありませんでしたが、夫がインテリアデザイナーの仕事をしていて。飲食店の内装などに携わっていて、商売として、これはやっていけるか否かがある程度わかるというか、そういう感覚を持っている人だったんです。その夫が、これならいけるんじゃない?と背中を押してくれたのは大きいですね」

アトリエの内装も旦那さんがサポート。実際の手書きのパース

今のお弁当からは想像もつかないほど、“超お弁当初心者”だった岩見祐子さん。失敗から始まって知ったのは、お弁当の魅力と詰める楽しさ、そして自分のやりたいこと。今までの飲食の経験はもちろん、お弁当を作る人としてもしっかりと経験を積んでいったことが自信となり、いよいよお弁当屋さんをオープンさせることになったのです。

アトリエのカウンターに並ぶずらりと並んだお弁当。美しい
詰め作業中の風景

岩見祐子さんの3つのこだわり

“暦をめくるように季節を感じるお弁当”をコンセプトに、一年の暦を24に分けた【二十四節気(にじゅうしせっき)】を、初候・次候・末候に分けた【七十二候(しちじゅうにこう)】に沿って、ほぼ5日ごとでメニューが切り替わるこよみ弁当。

岩見祐子さんがお弁当を作るうえで、どんなことにこだわりを持っているのかお聞きしてみました。

クリエイター

“暦をめくるように季節を感じるお弁当”がコンセプトの「ゆうこのこよみ弁当」店主。居酒屋やワインバー、カフェなどさまざまな形で飲食に携わったのち、お弁当・ケータリング作りをスタート。Instagramに投稿したお弁当が話題となり宅配を開始し、ついに2024年5月に自身のアトリエをオープン。

フリーライター。大阪在住。大学卒業後、株式会社オレンジページでアルバイトとして現場や料理を学んだのち、兵庫県・神戸の帽子ブランド「mature ha.」に就職。退職・出産を経て、ライターとして活動開始。好きか嫌いかはひとまず置いといて、とりあえずやってみるタイプ。今日も夕飯の献立を考えながら暮らしている。

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