2024年現在、自分の手で甘酒作りを始めてなんと約30年。子どものときから大の甘酒好きで、大学は東京農業大学で発酵について学び、仕事も発酵関係会社勤務を選択。ついには“甘酒探求家”となった藤井寛(ひろし)さん。甘酒の魅力を発信するWEBサイト「あまざけ.com」を運営しながら、執筆や講演会、ワークショップなど行っています。ひとつのことに特化して活躍するために何が必要なのか伺いました。
目次
- 数ある発酵食品のなかで甘酒を専門にした理由
- 多くの人が知らない甘酒の真実
- 甘酒と腸活の驚きの関係
- 探求家の情報収集力と発信力とは
- 甘酒を軸に広がる発酵の未来
数ある発酵食品のなかで甘酒を専門にした理由
藤井寛さんが甘酒の探求者となる最初のきっかけは、お母さまが作ってくれた甘酒でした。自宅にあった自動餅つき機を使って、もち米をお粥状に炊いて米麹で発酵させるという本格的なものです。
「米麹から作った甘酒があまりにもおいしくて、何度も作ってもらいました。そのうち自分でも作りたくなって、手軽に作る方法を考えて炊飯器で作るようになりました。それが小学4年生のときですね。2週間に一度は甘酒を作る生活を続け、改良を重ねていきました」
何かに興味を持つと、とことん突き詰める性格の藤井寛さん。高校生のころにはチーズやヨーグルトなどの発酵食品にも興味を持ち、食品微生物について研究しようと、東京農業大学醸造学科に進学を決めました。
「大学では、授業以外でも乳酸菌研究のさまざまな講座に顔を出して聴講していました。乳利用の文化をまとめた『乳利用の民族誌』(中央法規出版,1992年)や、大学の検索サービスで腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)情報も収集していました。知れば知るほど面白くて、のめり込んでいましたね」
大学院を修了してからは発酵関連の会社に就職し、研究職へ。思った道に進めているものの、次第に自分が持っている知識をアウトプットして、何かに活かしてみたいと思ようになりました。
「会社だけで人生が完結するものつまらない。いろいろやってみたいと考えて、同じようにスキルアップを目指す人が集まる社会人サークル『勝間塾(※)』に参加しました。そこで知り合った仲間とブレインストーミングをして、頭の中にあるアイデアをどんどん出して整理していったんです。そこで、自分が何か特化して発信できるのは甘酒だ!と気づきました。ただ好きで飲んでいるだけだったので、甘酒に自分の可能性が広がっているなんて、周囲から言われるまで思いもつきませんでした」
※勝間塾……経済評論家・著述家の勝間和代氏が、月例会や毎月の課題などを通して、仕事のスキルアップ、起業や出版、やりたい気持ちの維持をサポートする場
震災の影響でクールビズや節電が推奨されていた2011年あたりから、冷たい甘酒が市場に出まわり始めました。さらに、塩麹、米麹ブームが到来。麹で作る甘酒が少しずつ注目され始めたころ、藤井寛さんは甘酒専門総合情報サイト「あまざけ.com」を立ち上げます。
「サイトを作り始めたのが2015年。そのころから、スーパーの商品棚に並ぶ甘酒の種類が多くなったと感じていましたが、あとで調べたら、甘酒市場規模は2017年から倍倍に増えていって、最終的には10倍になったんです」
甘酒と腸活の驚きの関係
甘酒は、糖質やアミノ酸、ビタミン類が豊富で、すぐに栄養源になることから『飲む点滴』とも呼ばれ、健康食品としても人気が高まっています。とくに、麹の酵素は整腸作用があり、発酵の過程で作り出された成分は善玉菌を増やすといわれ、腸活でも注目されています。
「腸内細菌は、日々の生活習慣によって変化します。善玉菌と悪玉菌、日和見(ひよりみ)菌をどういう環境下に置くか、何を与えるかによって善玉菌が増えたり、減ったりします。このバランスを整えてくれるのが、プロバイオティクス(腸内菌叢 or 腸内フローラに良い影響を与える食品成分)です。甘酒に使う米麹を作り出している麹菌自体が腸内細菌のエサになるので、プロバイオティクスとして優秀なんです。
ほかにも人間の体にプラスに作用する成分が具体的にわかり始めていて、企業も研究に乗り出してきていいるので、健康食品としての甘酒は、これからまだ伸びていく分野です」
小さいころから甘酒を飲み続けている藤井さんですから、腸活はばっちり!なのでは?
「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)検査キットを使って、自分の腸内フローラの状態を調べたことがあります。善玉菌が平均よりもかなり多いという結果がでました。あと、エクオール産生菌(※)が平均の3倍ぐらいありました。その菌がある人自体、日本人の3~5割ぐらいなので、自分でもこの数字にはびっくりしましたね」
※エクオール産生菌……女性ホルモンに似たな働きをすることがわかり、肌や髪にもいい影響があると近年美容界でも注目されている
多くの人が知らない甘酒の真実
クリエイター
1985年生まれ。株式会社発酵牧場の代表取締役。幼少時より祖父の漬物や、手作りみそ、母親が日常的に作る甘酒など、発酵食品に親しみのある環境で育つ。発酵食品を作り出す食品微生物に興味を持ち、東京農業大学へ進学し、2013年同大学の大学院を修了。著書に『甘酒のほん 知る、味わう、たずねる』(山川出版社)など。
編集・ライター。情報系出版社を経てフリーランスに。衣食住全般からビジネス系まで幅広く取材・ライティングを行い、飲食店での取材は約500軒を数える。人が書いた文章を読むのも話を聞くのも大好物で、取材があれば前のり上等でどこへでも向かう。